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身だしなみと言葉遣いの基本
身だしなみ(清潔感とTPO、スーツと小物、在宅勤務の服装)
おしゃれは自分のため、身だしなみは相手のため。清潔感とTPOという2つの物差しで、会った最初の数秒で損をしない支度を身につけます。
初対面の相手は、あなたが話し始める前に、髪・服・靴・持ち物から印象を作ります。ここで大事なのは、身だしなみとおしゃれが別物だということです。おしゃれは自分の好みを表すもので、良し悪しを決めるのは自分。身だしなみは相手に不快感を与えないための配慮で、良し悪しを決めるのは相手とその場です。だから「自分は気に入っている」は身だしなみの理由になりません。判断に迷ったら、相手からどう見えるかに置き換えて考えます。
具体的には、出社前に上から下へ順に見ていきます。髪は目にかからないか、寝ぐせはないか。ひげは剃るか、伸ばすなら形が整っているか。シャツの襟と袖に汚れはないか、しわは伸びているか。ボタンが取れかけていないか。つめは短く切りそろえてあるか。靴は汚れていないか、かかとがすり減っていないか。においは自分では気づきにくいので、香水や整髪料は控えめにし、食事や喫煙のにおいが残っていないか気をつけます。前日に着たシャツを、においが気にならないからと着回すのは避けます。自分の鼻はいちばんあてになりません。
何を着るかはTPO、つまり時と場所と場面で決まります。まず勤務先に服装の規定があるならそれが最優先です。オフィスカジュアルという言い方には全国共通の定義がなく、許される範囲は会社ごとに違うので、自社の基準を確かめてから合わせます。明文の規定がない部分で迷ったときは、くだけた側ではなくきちんとした側に寄せておくと失敗しません。来客や訪問がある日は相手に合わせて一段階整える、工場や現場を見学する日は先方が指定する保護具や靴の条件に従う、というように、同じ服でも場面が変われば適否は変わります。
スーツは値段より寸法が効きます。肩の位置と袖の長さが合っていれば、高価でなくても整って見えます。小物は数を絞るのが基本で、腕時計や指輪を増やしても信頼が増えるわけではありません。かばんはA4の書類が折れずに入る大きさで、床に置いて自立するものを選ぶと、訪問先で動作が乱れません。在宅勤務でオンライン会議に出る日も考え方は同じです。画面に映るのは上半身でも、途中で立ち上がることはありますし、急な外出も起こります。社外の人が見て差し支えない服に着替え、カメラに映る範囲と背景、顔が暗くならない光の向きまで、始まる前に確かめておきます。
身だしなみの支度(前夜と当日朝) 前夜1: 翌日の予定を見て、来客・訪問・現場の有無を確かめる 前夜2: 着る服を出し、しわ・ほつれ・ボタンを確認する 前夜3: 靴を磨き、かばんの中身を入れ替える 当日1: 髪・ひげ・つめを整える 当日2: 鏡の前で上から下へ、襟・袖・すそ・靴の順に見る 当日3: 香りと食後のにおいを確かめてから家を出る
| 見るところ | 整った状態 | やりがちなNG |
|---|---|---|
| 髪 | 目にかからず、寝ぐせがない | 寝ぐせを帽子で隠して出社する |
| シャツ | 襟と袖が白く、しわがない | 前日のシャツをにおいで判断して着回す |
| つめ | 短く切りそろえ、汚れがない | 伸びたまま、書類を指す動作で目立つ |
| 靴 | 汚れがなく、かかとが減っていない | 上半身だけ整えて足元を見ていない |
| 小物 | 腕時計やかばんは数を絞る | 装身具を増やして信頼を得ようとする |
| におい | 香水や整髪料は控えめ | 自分が良いと思う香りを強くつける |
- 身だしなみ
- 相手に不快感を与えないように装いを整えること。判断の基準は自分の好みではなく、相手とその場にある。
- 清潔感
- 実際に清潔であることに加え、見た目にもそう伝わる状態。髪・つめ・靴・襟と袖・しわ・においが主な確認点。
- TPO
- time(時)・place(場所)・occasion(場面)の頭文字。同じ服でも場面が変われば適否が変わる、という考え方。
- ドレスコード
- その場で求められる服装の決まり。式典や会食では主催者側が示すことがあり、示されたら従う。
- オフィスカジュアル
- スーツより崩した通勤着の総称。全国共通の定義はなく、許容範囲は会社ごとに異なるため自社の基準を確認する。
- におい への配慮
- 香水・整髪料・食事・喫煙などのにおいを控えること。自分では慣れて気づきにくく、好みも人により分かれる。
- 在宅勤務の服装
- オンライン会議で映る範囲と背景まで含めた支度。上半身だけを整えればよいという考え方は、立ち上がった瞬間に崩れる。
例題 服装の規定がない職場で、何を着るか迷った。どう決めるか。
迷ったらきちんとした側に寄せる。まず社内の一般的な服装を見て基準を知り、来客や訪問の予定がある日はさらに一段階整える。いちばんくだけた人に合わせるのは基準の取り違え。
例題 在宅勤務で、午後に急なオンライン会議が入った。どう備えるか。
社外の人が見ても差し支えない服に着替え、カメラに映る範囲と背景を確認する。上半身しか映らないという前提は、立ち上がったときに崩れる。
例題 取引先の工場を見学することになった。持ち物をどう決めるか。
先方に保護具や靴の条件を事前に確認し、指示に従う。服装が安全に直結する場所では、見学者にも受け入れ側の規則が適用されるのが通常。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
あいさつ・表情・お辞儀(会釈・敬礼・最敬礼)
先に、相手を見て、届く声で。あいさつの基本と、場面で使い分ける3種類のお辞儀を、動きの順番まで身につけます。
職場では一日に何度もあいさつの機会があります。ここで差がつくのは中身ではなく先手です。相手が言う前に自分から言う、というだけで印象は変わります。届く声で、相手の目を見て、できれば手を止めて。パソコンの画面を見たまま返すのは、返していないのとあまり変わりません。朝は「おはようございます」、社外の相手には「お世話になっております」、出かける人には「いってらっしゃいませ」、戻った人には「お帰りなさいませ」、自分が先に帰るときは「お先に失礼します」、残る側は「お疲れさまでした」と返します。なお「ご苦労さま」は目上の人が目下の人をねぎらう言い方とされるので、上司には使わないのが広く共有された慣行です。
表情は言葉より先に届きます。話を聞くときは口角を上げ、体ごと相手の方を向きます。目を合わせ続けるのが苦手なら、目そのものではなく目のまわりや眉のあたりに視線を置けば、相手には見られていると伝わります。手元の資料を見続けると、聞いていないと受け取られます。マスクをしている場面では口元が隠れる分、目元の表情と声の調子を意識します。
お辞儀は大きく3種類です。会釈はいちばん軽く、廊下ですれ違うとき、部屋に入退室するとき、来客の前を通るときに使います。敬礼は普通礼とも呼ばれ、来客を迎えるとき、訪問先であいさつするとき、名刺交換のときなど、改まった場面の標準です。最敬礼はいちばん深く、大きなおわびや厚いお礼、改まった見送りに使います。上体を倒す角度は一般に、会釈が15度前後、敬礼が30度前後、最敬礼が45度前後とされますが、この数値は流派によって幅があり、厳密に何度でなければならないというものではありません。角度を測ることより、気持ちの強さと深さを対応させることの方が大事です。
形として押さえたいのは姿勢と順番です。かかとをそろえて立ち、背筋を伸ばしたまま腰から上体を折ります。首だけを曲げると落ち着きがなく見えます。手は前で軽く重ねるか、体の横に自然に添えます。下げたところで一度止め、ゆっくり戻して、最後にもう一度相手を見ます。言葉とお辞儀を同時に行う同時礼より、先に言葉を述べてから頭を下げる語先後礼の方が丁寧とされます。相手と同時に礼をする場面では、相手より先に下げ始め、相手が上げてから上げると敬意が伝わります。見送りでは、相手が振り返ったときにこちらが見送っている状態であることに意味があるので、背を向けた瞬間に戻らず、姿が見えなくなるまで見送ります。
お辞儀の手順(語先後礼の形) 1: 立ち止まり、かかとをそろえる 2: 相手の目を見る 3: 言葉を述べる(おはようございます/お世話になっております) 4: 背筋を伸ばしたまま腰から上体を折る 5: いちばん下でいったん止める 6: ゆっくり上体を戻す 7: もう一度相手の目を見る
| 種類 | 主に使う場面 | 一般にいわれる目安 |
|---|---|---|
| 会釈 | 廊下ですれ違う、入退室する、来客の前を通る | 上体を15度前後(流派により幅がある) |
| 敬礼(普通礼) | 来客を迎える、訪問先であいさつする、名刺を交換する | 上体を30度前後(流派により幅がある) |
| 最敬礼 | 大きなおわび、厚いお礼、改まった見送り | 上体を45度前後(流派により幅がある) |
- あいさつの先手
- 相手より先に自分から声をかけること。返すだけの受け身と比べ、印象が大きく変わる。
- 会釈
- 3種類のうち最も軽いお辞儀。廊下ですれ違うとき、入退室のときなどに使う。一般に15度前後とされる。
- 敬礼(普通礼)
- 改まった場面の標準となるお辞儀。来客を迎えるとき、訪問先でのあいさつ、名刺交換のときに使う。一般に30度前後とされる。
- 最敬礼
- 最も深いお辞儀。大きなおわび、厚いお礼、改まった見送りに使う。一般に45度前後とされる。
- 語先後礼
- 先に言葉を述べ、いったん相手を見てからお辞儀をする形。言葉と礼を同時に行う同時礼より丁寧とされる。
- アイコンタクト
- 相手に視線を向けること。目を合わせ続けるのが苦手な場合は、目のまわりや眉のあたりに視線を置くとよい。
- ご苦労さま と お疲れさま
- 「ご苦労さま」は目上が目下をねぎらう言い方とされるため、上司には「お疲れさまでした」を使うのが慣行。
例題 廊下で、面識のない来客とすれ違った。どうするか。
立ち止まるか歩みをゆるめ、会釈をする。来客から見れば社員は全員が同じ会社の人なので、自分の担当かどうかは関係がない。深く下げる必要はない。
例題 退社する上司に声をかける。どの言葉を使うか。
「お疲れさまでした」。「ご苦労さま」は目上が目下をねぎらう言い方とされるため、上司には使わない。
例題 訪問先で、相手と同時に頭を下げることになった。どう動くか。
相手より先に下げ始め、相手が上げてから上げる。先に上げると、相手が下げている間にこちらが見ている形になる。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
時間・報告・離席の一言(社会人のふるまいの基本)
5分前行動、悪い報告ほど早く、そして「席を外します」の一言。信頼はこの3つの積み重ねでできています。
まず時間です。始業時刻は「会社に着く時刻」ではなく「席について仕事を始められる時刻」です。移動、着替え、パソコンの立ち上げはその前に済ませます。会議は5分前に着席、訪問は約束の5分前に受付、というのが一般的な目安で、早すぎる到着もまた相手の準備を急がせるので避けます。遅れそうだと分かったら、その時点ですぐ電話をします。メールやメッセージは相手が見ているとは限りません。伝えるのは、遅れる事実、理由、そして到着の見込み時刻です。見込みが分かって初めて、相手は予定を組み直せます。
次に報告です。指示を受けたら要点を復唱し、期限と成果物の形を確かめてメモします。報告するときは結論から述べ、そのあとに経過、最後に自分の考えを、それぞれ分けて話します。事実と推測を混ぜると、聞いた側の判断を誤らせます。長くかかる仕事では、区切りのところで中間報告を入れます。途中で方向がずれていても本人には見えにくく、早く気づけばそれだけ修正が小さくて済むからです。そして最も大事なのは、悪い知らせほど早く伝えることです。自分で取り返してから、上司の機嫌が良いときに、原因を調べてから、といった理由づけはどれも報告を遅らせ、その間に選べる手が減っていきます。
席を離れるときは一言添えます。行き先と戻る予定の時刻を近くの人に伝えておけば、その間に来た電話や来客に、周囲が「◯◯時ごろ戻る予定です」と応対できます。パソコンの画面が開いていることは在席の証明になりません。長時間の離席や外出は、予定表や共有の掲示に反映させます。退社するときは残っている人に声をかけてから帰ります。
最後に、場でのふるまいです。会議中の携帯電話は開始前にマナーモードにし、机の上に置いて触らないのが基本です。音を消していても、画面を見たり操作したりすれば発言者には分かります。外せない連絡がある場合は、あらかじめ断って席を外します。仕事で知った情報は私的なSNSに書きません。社名を伏せても、日付や場所から相手が特定されることがありますし、公開範囲を絞っても転載までは止められません。移動中の車内やカフェで案件の話を続けるのも同じ危険があります。喫煙は決められた場所で行い、勤務時間中に何度も抜けないようにします。職場の受動喫煙については、労働安全衛生法 第68条の2が、事業者に対し、室内またはこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙を防止するため、実情に応じた適切な措置を講ずるよう努めることを求めています。においや音への配慮も、同じ場で働く人への気配りの一部です。
遅れそうなときの手順 1: 遅れると分かった時点で、到着の見込み時刻を計算する 2: 相手に電話をかける(メールだけで済ませない) 3: 遅れる事実をわびる 4: 理由を簡潔に伝える 5: 到着の見込み時刻を伝える 6: 予定をどうするか指示を仰ぐ 7: 到着したら、あらためて対面でわびる
| 場面 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 始業 | 始業時刻には席で始められる状態 | 始業時刻は到着時刻ではなく開始時刻だから |
| 社内の会議 | 5分前に着席 | 資料と接続の準備を終えて定刻に始めるため |
| 訪問 | 約束の5分前に受付 | 早すぎると相手の準備を急がせてしまうため |
| 遅れそうなとき | 分かった時点ですぐ電話 | 早いほど相手が予定を組み直せるため |
| 離席 | 行き先と戻る時刻を伝えてから | 電話や来客に周囲が応対できるようにするため |
- 5分前行動
- 会議は5分前に着席、訪問は5分前に受付、という時間の取り方。早すぎる到着も相手の準備を急がせるので避ける。
- 報連相
- 報告・連絡・相談の頭文字。報告は済んだことを、連絡は共有すべき事実を、相談は判断を仰ぎたいことを伝える。
- 結論から話す
- 結果を先に述べ、経過と自分の考えを後に分けて述べる話し方。聞く側が次の判断をしやすくなる。
- 中間報告
- 仕事の途中で進み具合を伝えること。方向のずれを小さいうちに直せる。長くかかる仕事ほど効果が大きい。
- 離席の一言
- 席を外すときに、行き先と戻る予定の時刻を周囲に伝えること。電話や来客への応対が滞らなくなる。
- 受動喫煙の防止
- 他人のたばこの煙にさらされることを防ぐこと。労働安全衛生法 第68条の2は、事業者に実情に応じた適切な措置を講ずる努力義務を定めている。
例題 任された作業で自分の入力ミスを見つけた。いつ報告するか。
気づいた時点ですぐ、事実をそのまま報告する。自分で直してから、原因を調べてから、といった理由づけは報告を遅らせるだけで、その間に打てる手が減る。
例題 打ち合わせのため15分ほど席を外す。何を伝えるか。
近くの人に行き先と戻る予定の時刻を伝える。電話や来客は自分の都合とは無関係に来るので、戻り時刻が分かれば周囲が応対できる。
例題 打ち合わせ帰りの電車で、先輩が案件の話を続けている。どうするか。
「会社に戻ってから伺います」などと伝えて切り上げる。声を小さくしても社名や案件名は周囲に届く。相手が先輩でも、場所を変える提案は失礼にあたらない。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
敬語
敬語の5分類(だれを立てているかで見分ける)
文化庁「敬語の指針」は敬語を5種類に分けます。尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ・丁寧語・美化語が、それぞれだれを立てる敬語なのかを整理します。
取引先に電話をかけると、短い会話の中に「相手の行為」「自分の行為」「自分の会社の人の行為」が次々に出てきます。「言う」だけでも、相手が言うなら「おっしゃる」、自分が相手に言うなら「申し上げる」、自分の側のことを丁重に伝えるなら「申す」と、選ぶ語が変わります。どれを選ぶかは丁寧さの強さで決まるのではなく、その一言でだれを立てているかで決まります。ここを取り違えると、相手を下げたり身内を持ち上げたりしてしまいます。
指針は敬語を、尊敬語(いらっしゃる・おっしゃる型)、謙譲語Ⅰ(伺う・申し上げる型)、謙譲語Ⅱすなわち丁重語(参る・申す型)、丁寧語(です・ます型)、美化語(お酒・お料理型)の5種類に分けます。従来の3分類では謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱがまとめて「謙譲語」、丁寧語と美化語がまとめて「丁寧語」とされていました。職場で起きる敬語の事故のほとんどは、この分け直した部分、つまり謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱの違いに集中します。
尊敬語は、相手側または第三者の行為・ものごと・状態などについて、その人物を立てて述べるものです。「先生は来週海外へいらっしゃる」なら行為者の先生を、「先生のお名前」なら所有者の先生を、「お忙しい」ならその状態にある人を立てます。謙譲語Ⅰは、自分側から相手側または第三者に向かう行為・ものごとについて、その向かう先の人物を立てるものです。「先生のところに伺う」の伺うは、行く先である先生を立てています。なお「くださる」は行為者を立てたうえで恩恵を受ける意味を、「いただく」は向かう先を立てたうえで恩恵を受ける意味を、それぞれ併せて表します。
謙譲語Ⅱ(丁重語)は、自分側の行為やものごとを、話や文章の相手に対して丁重に述べるものです。参る・申す・いたす・おる・存じる がこれに当たります。立てるのにふさわしい向かう先がなくても使えるのが謙譲語Ⅰとの大きな違いで、「弟のところに伺います」は自分の弟を立ててしまう誤用ですが、「弟のところに参ります」は問題がありません。一方で謙譲語Ⅱは基本的に自分側のことに使うので、「どちらから参りましたか」のように相手側の行為に使うのは不適切です。また一般に「ます」を伴って使います。
丁寧語は「です」「ます」を付けて話や文章の相手に丁寧に述べるもので、さらに丁寧さの度合いが高いものに「(で)ございます」があります。美化語は「お酒」「お料理」のようにものごとを美化して述べるもので、だれかを立てる働きはありません。最後に、尊敬語と謙譲語Ⅰを使うときの原則が三つあります。自分側は立てない、相手側を立てるのが典型的な使い方、第三者は総合的に判断して立てる方がふさわしければ立てる、ただし相手から見て立てる対象と認識されないと思われる第三者は立てない配慮をする、というものです。
敬語を選ぶときの順序 1 だれの行為かを決める(自分側か、相手側や第三者か) 2 相手側や第三者の行為なら尊敬語(先生がいらっしゃいます) 3 自分側の行為なら、向かう先に立てるべき人がいるかを見る 4 いるなら謙譲語Ⅰ(先生のところに伺います) 5 いないなら謙譲語Ⅱ(弟のところに参ります) 6 文末は丁寧語で整える(です/ます/(で)ございます)
| 種類 | 何について述べるか | 立てる相手 | 語例 |
|---|---|---|---|
| 尊敬語 | 相手側や第三者の行為・ものごと・状態 | その行為者や所有者 | いらっしゃる/おっしゃる/なさる/召し上がる/お使いになる |
| 謙譲語Ⅰ | 自分側から相手側や第三者に向かう行為 | その向かう先 | 伺う/申し上げる/お目に掛かる/差し上げる/お届けする |
| 謙譲語Ⅱ(丁重語) | 自分側の行為やものごと | 話や文章の相手 | 参る/申す/いたす/おる/存じる |
| 丁寧語 | 内容を選ばず広く使える | 話や文章の相手 | です/ます/(で)ございます |
| 美化語 | ものごとを美化して述べる | 立てる相手はない | お酒/お料理 |
- 尊敬語
- 相手側または第三者の行為・ものごと・状態などについて、その人物を立てて述べる敬語。いらっしゃる、おっしゃる、なさる、召し上がる、お使いになる、お名前、お忙しい など。
- 謙譲語Ⅰ
- 自分側から相手側または第三者に向かう行為・ものごとについて、その向かう先の人物を立てて述べる敬語。伺う、申し上げる、お目に掛かる、差し上げる、お届けする など。
- 謙譲語Ⅱ(丁重語)
- 自分側の行為やものごとを、話や文章の相手に対して丁重に述べる敬語。参る、申す、いたす、おる、存じる、拙著、小社 など。一般に「ます」を伴って使う。
- 丁寧語
- 話や文章の相手に対して丁寧に述べる敬語。「です」「ます」。さらに丁寧さの度合いが高いものとして「(で)ございます」がある。
- 美化語
- ものごとを美化して述べるもの。「お酒」「お料理」。行為者・向かう先・相手のだれかを立てる働きはなく、広い意味で敬語に位置付けられる。
- 立てる
- その人物を言葉の上で高く位置付けて述べること。心から敬う場合だけでなく、立場を尊重する場合や距離を置く場合も含めた、共通の特徴を指す言い方。
- くださる・いただく
- 「くださる」は尊敬語に、「いただく」は謙譲語Ⅰに、それぞれ「その行為から恩恵が与えられる」という意味を併せ持たせた語。
例題 「先生からのお手紙」と「先生へのお手紙」は、同じ「お手紙」でも敬語の種類が違う。それぞれ何か。
「先生からのお手紙」は手紙を書いた行為者である先生を立てるので尊敬語。「先生へのお手紙」は向かう先である先生を立てるので謙譲語Ⅰ。同じ形で尊敬語にも謙譲語Ⅰにもなる例。
例題 恩師の加藤先生に向かって「弟のところに参ります。」と言った。だれを立てているか。
立てているのは相手である加藤先生で、弟を立ててはいない。参るは謙譲語Ⅱで、話や文章の相手に対して丁重に述べる敬語だから。「弟のところに伺います。」だと弟を立てることになり誤用。
例題 駅員が「あ、バスが参りました。」と言うのは適切か。
適切。謙譲語Ⅱは基本的に自分側の行為に使うが、立てなくても失礼に当たらない第三者や事物についても使うことができ、話や文章の相手に丁重に述べる働きを果たす。
出典:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)第2章 敬語の仕組み 第1 敬語の種類と働き
敬語の形(お・御の付け方、二重敬語、可能の形)
敬語には決まった語に置き換える特定形と、いろいろな語に当てはめる一般形があります。お・御の使い分け、作れない形、二重敬語と敬語連結の区別を押さえます。
尊敬語には、行く・来る・いるを「いらっしゃる」に、言うを「おっしゃる」に、するを「なさる」に、食べる・飲むを「召し上がる」に、くれるを「下さる」に置き換える特定形と、広くいろいろな語に当てはめられる一般形があります。一般形は「お(ご)……になる」「……(ら)れる」「……なさる」「ご……なさる」「お(ご)……だ(です)」「お(ご)……くださる」です。ここで注意したいのは「お(ご)……する」で、これは謙譲語Ⅰの形なので尊敬語として使えません。また「ご……される」は、本来、尊敬語の適切な形ではないとされています。
お と 御 の使い分けは「お+和語」「御+漢語」が原則です。読む→お読みになる、出掛ける→お出掛けになる、利用する→御利用になる、出席する→御出席になる、という具合です。ただし美化語では漢語の前でも「お料理」「お化粧」のように お が好まれ、美化語以外でも「お加減」「お元気」のような変則的な例があります。さらに、慣習上 お・御 と組み合わせられず「お(ご)……になる」が作れない動詞もあります。指針は、お死にになる、御失敗になる、御運転になる を作れない例として挙げ、それぞれ お亡くなりになる・亡くなられる、失敗なさる・失敗される、運転なさる・運転される を示しています。御覧になる、おいでになる、お休みになる、お召しになる は変則的な作り方の例です。
謙譲語Ⅰの特定形には、伺う、申し上げる、存じ上げる、差し上げる、頂く、お目に掛かる、お目に掛ける、御覧に入れる、拝見する、拝借する があります。一般形は「お(ご)……する」「お(ご)……申し上げる」「……ていただく」「お(ご)……いただく」です。「お(ご)……する」は向かう先を立てる形なので、向かう先の人物がある動詞に限って作れます。届ける・案内する には向かう先があるので お届けする・御案内する と言えますが、食べる・乗車する には向かう先の人物が想定できないので お食べする・御乗車する という形は作れません。謙譲語Ⅱの一般形は「……いたす」だけで、これはサ変動詞にのみ使えます。
可能の意味を添えるときは、まず敬語の形にしてから可能の形にします。尊敬語なら 召し上がれる、お読みになれる、御利用になれる、謙譲語Ⅰなら 伺える、お届けできる、御報告できる です。逆に「お(ご)……できる」は謙譲語Ⅰ「お(ご)……する」の可能形なので、相手の行為に使うのは適切ではありません。駅の「御乗車できません」は「御乗車になれません」とするのが適切で、「御乗車いただけません」「御乗車はできません」という言い方も可能です。「分かりにくい」「読みやすい」のように動詞と形容詞が組み合わさった語は、動詞の部分だけを尊敬語にして「お分かりになりにくい」「お読みになりやすい」とします。
一つの語について同じ種類の敬語を二重に使ったものが二重敬語で、「お読みになられる」がその例です。二重敬語は一般に適切ではないとされますが、お召し上がりになる、お見えになる、お伺いする、お伺いいたす、お伺い申し上げる のように習慣として定着しているものもあります。これに対し、二つ以上の語をそれぞれ敬語にして「て」でつないだものは敬語連結と呼ばれ、個々の敬語が適切で結び付きに不合理がなければ基本的に許容されます。「お読みになっていらっしゃる」「お読みになってくださる」がその例です。ただし「先生は私の家に伺ってくださった」「私は先生に御案内していただいた」のように、相手の行為を謙譲語Ⅰで述べて自分を立ててしまう連結は不適切で、後者は して を削って「御案内いただく」とすれば適切になります。
助詞にも注意が必要です。「くださる」は先生が主語、「いただく」は自分が主語になるので、「先生が指導してくださった」「先生に指導していただいた」となります。「先生が御指導いただいた」と言うと、いただく が もらう・受ける の意味であるため、先生が別の人物の指導を受けたことになってしまいます。
言い換えの型 御利用される → 御利用になる/利用なさる/利用される 御乗車できません → 御乗車になれません/御乗車いただけません お分かりにくい → お分かりになりにくい お読みやすい → お読みになりやすい 御運転になる → 運転なさる/運転される 御案内していただく → 御案内いただく お読みになられる → お読みになる
| 区分 | 例 | 指針での扱い |
|---|---|---|
| 二重敬語 | お読みになられる | 一つの語に同じ種類の敬語を重ねたもの。一般に適切ではない |
| 定着した二重敬語 | お召し上がりになる/お見えになる/お伺いする | 習慣として定着しているものとして指針が挙げる |
| 敬語連結 | お読みになっていらっしゃる/お読みになってくださる | 個々の敬語が適切で不合理がなければ基本的に許容される |
| 不適切な敬語連結 | 御案内していただく/伺ってくださる | 相手の行為を謙譲語Ⅰで述べて自分を立ててしまう。御案内いただく とする |
- 特定形
- 行く→いらっしゃる、訪ねる→伺う のように、語そのものを別の語に置き換えて敬語にする形。
- 一般形
- 「お(ご)……になる」「お(ご)……する」のように、広くいろいろな語に当てはめて敬語を作る形。
- 二重敬語
- 一つの語について同じ種類の敬語を二重に使ったもの。お読みになられる など。一般に適切ではないが、お召し上がりになる、お伺いする のように習慣として定着したものもある。
- 敬語連結
- 二つ以上の語をそれぞれ敬語にして接続助詞「て」でつないだもの。お読みになっていらっしゃる など。個々の敬語が適切で不合理がなければ基本的に許容される。
- お+和語・御+漢語
- お と 御 の使い分けの原則。お読みになる/御利用になる。ただし美化語は漢語でも お が好まれ、お加減・お元気 のような変則もある。
- お(ご)……できる
- 謙譲語Ⅰ「お(ご)……する」の可能形。自分の行為には使えるが、相手の行為の可能を表す尊敬語としては使えない。尊敬語の可能形は「お(ご)……になれる」。
- 名詞の謙譲語Ⅱ
- 愚見・小社・拙著・弊社 のように 愚・小・拙・弊 を付けて自分側を控え目に表す語。ほぼ書き言葉専用。
例題 「部長は御運転になりますか。」と言ってよいか。
よくない。運転する は慣習上「ご……になる」の形が作れない語として指針が挙げている。「運転なさいますか」「運転されますか」とする。
例題 「先生が御指導いただいたおかげです。」の問題点は何か。
いただく は もらう・受ける の意味なので、指導を受ける側の自分を主語にし、先生には に を付けて「先生に御指導いただいた」とする。先生を主語にするなら「先生が御指導くださった」。
例題 「お伺いします。」は二重敬語ではないのか。
二重敬語である。ただし お伺いする、お伺いいたす、お伺い申し上げる は、習慣として定着している二重敬語の例として指針が挙げているので、使って問題ない。
出典:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)第2章 敬語の仕組み 第2 敬語の形/同 第3章 敬語の具体的な使い方 第2 敬語の適切な選び方
選び方で迷う場面(尊敬語と謙譲語Ⅰの取り違え)
職場で最も多い敬語の事故は、相手の行為に謙譲語Ⅰを使ってしまうことです。指針が具体例を挙げている取り違えと、させていただく の使いどころを確かめます。
受付で客に「担当者に伺ってください。」と言う、上司に「そのファイルもお持ちしますか。」と尋ねる、お知らせ文に「御在宅する必要はありません。」と書く。これらはどれも、相手の行為なのに謙譲語Ⅰを使ってしまった例として指針が取り上げているものです。伺う、お聞きする、お尋ねする、お持ちする、御在宅する はいずれも謙譲語Ⅰの形なので、客や上司の行為には使えません。それぞれ、お聞きください・お尋ねください、お持ちになりますか、御在宅なさる必要・御在宅の必要 と尊敬語にします。「担当者にお聞きしてください。」のように ください を付けても、お聞きする が謙譲語Ⅰである事実は変わらないので、やはり使えません。
謙譲語Ⅱの取り違えもあります。加藤先生に向かって「明日は、田中先生のところに参ります。」と言っても、田中先生を立てたことにはなりません。参る は相手に対して丁重に述べる敬語であって、話の中に出てくる第三者を立てる働きはないからです。田中先生を立てるなら「伺います」とします。逆に、参る や 申す を含んでいても謙譲語Ⅱとして働いていない表現があります。「御持参ください」「お申し出ください」「お申し込みください」は相手側の行為に用いて問題ありません。気になる場合は「お持ちください」「おっしゃってください」と言い換えられます。「そのように申し伝えておきます。」も、相手である社長に改まって述べたもので、部下を高めることにはなりません。
自分側に お や 御 を付けることは、常に禁じられているわけではありません。「(先生を)お待ちする」「(山田さんに)御説明をしたい」のように、向かう先を立てる謙譲語Ⅰであれば全く問題がなく、「私のお菓子」のように美化語として使う場合もあります。付けてはいけないのは「私のお考え」「私の御旅行」のように、自分側の動作やものごとを立ててしまう場合で、これは自分側に尊敬語を用いる誤用になります。
いただく と くださる はどちらも使えます。「御利用いただく」は謙譲語Ⅰ、「御利用くださる」は尊敬語で、立てる対象も、恩恵を受けるという認識を表す点も同じなので、どちらも適切に敬語が用いられているというのが指針の判断です。ただし「御利用いただく」の用法には受け止め方に個人差があることも述べられています。
「(お・ご)……(さ)せていただく」は、自分側が行うことを、相手側または第三者の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちがある場合に使う形です。相手の本をコピーする前の「コピーを取らせていただけますか。」はこの条件を満たします。研究発表の冒頭の「発表させていただきます。」や、張り紙の「本日、休業させていただきます。」は、許可の条件がない場合にはやや冗長で、「発表いたします」「休業いたします」の方が簡潔です。自己紹介での「○○高校を卒業させていただきました。」は、許可も恩恵もないと感じられる場合には不適切と判断されます。
だれの行為かで敬語を決める 相手や上司の行為 → 尊敬語(お聞きになる/お尋ねになる/お持ちになる) 自分の行為で向かう先を立てる → 謙譲語Ⅰ(お聞きする/お尋ねする/お持ちする) 自分側のことを相手に丁重に述べる → 謙譲語Ⅱ(参る/申す/いたす/おる) ください を付けても謙譲語Ⅰは尊敬語にならない 許可を得て行い恩恵を受けるとき → させていただく
| 言いたいこと | 取り違えた言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|---|
| 客に担当者へ尋ねてもらう | 担当者に伺ってください | 担当者にお聞きください/お尋ねください |
| 課長が持っていくかを尋ねる | そのファイルもお持ちしますか | そのファイルもお持ちになりますか |
| 相手が在宅する必要はない | 御在宅する必要はありません | 御在宅なさる必要/御在宅の必要はありません |
| 第三者の先生を立てて訪問を伝える | 田中先生のところに参ります | 田中先生のところに伺います |
| 自分の考えを述べる | 私のお考えでは | 私の考えでは |
- 取り違え
- 相手の行為に謙譲語Ⅰを使う、自分の行為に尊敬語を使うといった、立てる相手を誤る使い方。指針が具体例を多く挙げている。
- お聞きする・お尋ねする
- 伺う と同じ謙譲語Ⅰ。客や上司の行為には使えない。相手に尋ねてもらうときは お聞きください・お尋ねください と尊敬語にする。
- 御持参ください
- 参る を含むが、ここでの 参 は謙譲語Ⅱとして働いていないため、相手側の行為に用いて問題ない。お申し出ください、お申し込みください も同様。
- 申し伝える
- 自分側の人物に伝えることを、相手に対して改まって述べた言い方。伝える先の部下を高めることにはならない。
- 御利用いただく
- 謙譲語Ⅰ。自分側の立場から相手側や第三者の行為を表現したもので、尊敬語の「御利用くださる」と同じく適切な敬語。
- させていただく
- 自分側が行うことを、(ア)相手側または第三者の許可を受けて行い、(イ)そのことで恩恵を受ける場合に使う形。条件をどの程度満たすかで許容度が変わる。
例題 受付で「担当者に伺ってください。」と言われて妙に感じた。どこが変か。
伺う は謙譲語Ⅰで、聞く・尋ねる の向かう先である担当者を立ててしまう。客を立てるには尊敬語を使い「担当者にお聞きください」「担当者にお尋ねください」とする。
例題 社長の指示を部下に伝えるとき「そのように申し伝えておきます。」でよいか。
よい。申す は謙譲語Ⅱで、相手である社長に対して改まって述べたものであり、向かう先である部下を立てるものではない。
例題 発表会の冒頭で「発表させていただきます。」と言うのはどうか。
許可と恩恵の条件を満たしていれば基本的な用法に合う。許可の条件がない場合にはやや冗長になるため、「発表いたします。」の方が簡潔に感じられる。
出典:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)第3章 敬語の具体的な使い方 第2 敬語の適切な選び方
場面で決まる敬語(ウチとソト、ねぎらい、依頼)
同じ相手でも、だれに向かって話すかで敬語は変わります。身内の扱い、ねぎらいと褒め、依頼の仕方、マニュアル敬語を場面ごとに確かめます。
取引先に対しては、上司も自分側すなわちウチの人になります。日ごろ敬語で話している田中部長のことも、社外の人に話すときは「田中」と呼んで問題ありません。「部長の田中」のように職階を示したうえでウチ扱いにする言い方もあり、改まった場面では「弊社の部長」、ややくだけた場面では「うちの部長」とも言えます。注意したいのは「田中部長」で、これはウチ扱いにした呼び方にはならないため不適切です。自分の家族についても、改まった場面では 父・母・祖父・祖母・兄・姉 のように言うのが基本です。
ウチ・ソトは相手が変われば線の引き方も変わります。社員だけの忘年会で司会をするなら、社長を立てて「社長からごあいさつを頂きます。」でよく、社外の人が多い会では、その人たちを立てて「社長からごあいさつを申し上げます。」とします。係長が部長を相手に課長の発言を伝える場合は、部長から見れば課長は立てる対象と認識されないため、課長を立てずに「課長は、このように申しておりました。」と謙譲語Ⅱで述べるのがよいとする考え方があります。一方で、課長を立てればさらに上の部長も立てることになるとして「おっしゃっていました」を認める考え方もあり、その場合も敬語を抑え気味にして「言われていました」程度にする配慮が考えられます。なお学校では、同僚の田中教諭の不在を保護者に伝えるとき、ウチ・ソトの意識では「田中はおりません。」ですが、世論調査では「田中先生」を支持する人が多く、「田中教諭」と職名で呼ぶ中立的な方法もあります。
ねぎらいと褒めには向きがあります。「御苦労様」は、基本的に自分側のために仕事をしてくれた人にねぎらいの気持ちを込めて使う表現で、ねぎらいは上位者から下位者に向けたものとなるため、目上の人には用いない方がよいとされます。仕事を教えてくれた上司には「ありがとうございました。」と感謝を伝え、一緒に書類作成に追われた上司が帰るときは「お疲れ様でございました。」などと言えばよいでしょう。褒めについても、身に付けるものや持ち物、容姿を褒められるのは基本的に親しい関係の人同士で、それほど親しくない講師のネクタイを褒めるのは適切とは言えません。講演の内容が分かりやすかった、参考になったという点を伝える方が適切です。また、上位者に能力や意思や願望を直接尋ねるのは避け、「フランス語もお話しになりますか。」のように事実を問う形にします。
呼び方と依頼にも型があります。「あなた」は現在では同等または下位の人に使うのが一般的で、上位者には用いにくい語です。名前を知っている相手は名前で呼び、知らない相手にはその人の動作に敬語を使って「お考えをお聞かせください。」とすれば避けられます。手紙のあて名では、氏名が明らかなのに「山田一郎先生御中」とするのは不適切で、御中 は組織や機関の中にいる関係者へあてることを表す脇付けだからです。依頼では、自分が責任者でないのに「この仕事をしていただきます。」と言うと決定権を持っているような表現になるので、「していただけますか。」「お願いできますか。」と相手に判断をゆだねます。突然「これ、お願いします。」と置いていくのではなく、「すみませんが」などの前置きを添えるだけで印象は変わります。
接客のマニュアル敬語も、型として有効である一方、誤ったまま定着しているものがあります。「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか。」は、「お……になる」が尊敬語の形であるため、御注文の品という物を立ててしまっています。「御注文の品は、そろいましたでしょうか。」あるいは「御注文の品は、以上でよろしいでしょうか。」とします。指針は、マニュアルが場面ごとに過度に画一的な敬語使用を示すと、かえって不快な思いを与えたり、その場にそぐわない過不足のある敬語使用になったりしやすいと指摘しつつ、まだ習熟していない人への手引としては有効だとも述べています。
場面ごとの言い換え 目上に「御苦労様でした」 → 「ありがとうございました」(感謝に変える) 一緒に働いた上司へ → 「お疲れ様でございました」 「フランス語もお話しになれますか」 → 「フランス語もお話しになりますか」(事実を問う) 「どこへいらっしゃるつもりですか」 → 「どちらへいらっしゃいますか」 責任者でないのに「していただきます」 → 「していただけますか」 「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか」 → 「御注文の品は、そろいましたでしょうか」
| 場面 | 適切とされる言い方 | 指針が示す理由 |
|---|---|---|
| 社員だけの忘年会で社長のあいさつを紹介する | 社長からごあいさつを頂きます | 会社内での立場だけを考えればよく、社長は立てるべき存在 |
| 社外の人が多い会で社長のあいさつを紹介する | 社長からごあいさつを申し上げます | ウチの社長は立てず、あいさつを聞く人たちを立てる |
| 取引先に上司の田中部長のことを話す | 田中/部長の田中/弊社の部長 | ウチ扱いにする。「田中部長」はウチ扱いの呼び方にならない |
| 部長を相手に課長の発言を伝える | 課長は、このように申しておりました | 部長から見れば課長は立てる対象と認識されない |
| 改まった場面で自分の家族のことを話す | 父・母・祖父・祖母 | ふだんの「お父さん」などをウチ扱いの語に改める |
- ウチ・ソト
- 自分側とみなす範囲と、その外側の相手側との区別。社外の人に対しては、自分の上司もウチの人物として扱い、立てずに述べる。
- 部長の田中
- 職階を示したうえでウチ扱いにした呼び方。「田中」「弊社の部長」も可。「田中部長」はウチ扱いの呼び方にならないため社外には不適切。
- 御苦労様
- 自分側のために仕事をしてくれた人へのねぎらいの表現。ねぎらいは上位者から下位者に向けたものとなるため、目上の人には用いない方がよい。
- お疲れ様
- 一緒に仕事をした後などに互いに掛け合うねぎらいの表現。「お疲れ様でございました」のような丁寧な言い方であれば、上司に対しても使える。
- とんでもございません
- 相手からの褒めや賞賛を軽く打ち消すときの表現。現在ではこうした状況で使うことに問題はないとされる。
- 御中
- 具体的な人ではなく、その組織や機関の中にいる関係者へあてることを表す脇付け。氏名が明らかな場合に添えるのは不適切。
- マニュアル敬語
- 接客場面などの言語使用を具体的に示したもの。型として有効だが、過度に画一的な使用は過不足のある敬語使用につながりやすい。
例題 取引先からの電話に「田中部長は席を外しております。」と答えた。よいか。
よくない。社外の人に対しては上司もウチの人物なので「田中は席を外しております」「部長の田中は席を外しております」とする。「田中部長」はウチ扱いにした呼び方にならない。
例題 講演会の講師に懇親会で「すてきなネクタイですね。」と褒めてよいか。
適切とは言えない。身に付けるものを褒められるのは基本的に親しい関係の人同士で、それほど親しくない相手ではなれなれしく受け取られる。講演の内容が分かりやすかった、参考になったという点を伝える方がよい。
例題 料理を出し終えて「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか。」と言った。どこが誤りか。
「お……になる」は尊敬語の形なので、御注文の品という物を立てていることになる。「御注文の品は、そろいましたでしょうか。」「御注文の品は、以上でよろしいでしょうか。」とすればよい。
出典:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)第3章 敬語の具体的な使い方 第3 具体的な場面での敬語の使い方
名刺交換・紹介・訪問
名刺交換(出す順・受け取り方・同時交換・机上での置き方)
名刺は相手の顔と同じものとして扱います。出す順、受け取り方、机の上での置き方までを1本の流れにしておけば、初対面の数十秒で慌てません。
応接室に通されて座って待っていると、担当者が入ってきます。ここから名刺交換が始まります。まず立ち上がり、机やかばんを相手とのあいだに挟まない位置へ動きます。机越しに手を伸ばして渡すのは略式で、初対面の改まった場では避けます。名刺入れはすぐ取り出せる場所に入れておき、かばんの底を探る時間を作らないようにします。名刺は出かける前に、角の折れや汚れがないか、部署や電話番号が古いままでないか、予定の人数より多めに入っているかを確かめておきます。
差し出す順は、訪問した側から、立場が下の側から先、というのが広く通用する慣行です。売り手と買い手であれば売り手から先に出します。役職の上下は、同じ側の中で順番を決めるときや、双方が複数いる場合の基準であって、訪問と受け入れの関係が先に立ちます。渡すときは名刺を名刺入れの上に載せ、相手から見て文字が正面になる向きにして、両手で胸の高さに差し出します。同時に、会社名、部署名、氏名の順に名乗ります。名刺は渡した瞬間には読まれないので、声で伝えることに意味があります。相手が先に出してきたら、まず受けて「申し遅れました」と添え、続けて自分の名刺を渡します。
実際にはお互いが同時に出す形になることの方が多く、これを同時交換と呼びます。右手で自分の名刺を差し出しながら、左手に持った名刺入れで相手の名刺を受け、受け取ったらすぐ両手に持ち替えます。このとき、社名や氏名の書かれた文字の上に指を置かないようにします。読み方が分からない氏名があれば、その場で「失礼ですが、何とお読みすればよろしいでしょうか」と尋ねて構いません。推測のまま呼び続けると、誤ったまま定着してあとで訂正しにくくなります。自分と上司、先方も複数、という組み合わせでは、双方の上位者どうしが先に交換し、続いて下位の者が交換します。
交換が済んだら着席します。受け取った名刺は机の手前に、相手が座っている並びに合わせて置いておくと、名前と顔を取り違えずに話せます。1枚だけのときは名刺入れの上に載せます。打ち合わせのあいだは出しておき、終わりに相手の動きに合わせてしまいます。先にしまうと、早く切り上げたいという合図に見えます。名刺を切らしていることに気づいたら、隠さずに「申し訳ございません、名刺を切らしております」とわびて口頭で名乗り、後日あらためて渡すか郵送します。なお受け取った名刺には氏名や連絡先が記載されており個人情報にあたるので、社内で定められた方法で保管し、廃棄も定められた手順で行います。
名刺交換の5手順 1: 立ち上がり、机やかばんを挟まない位置へ動く 2: 名刺入れの上に名刺を載せ、相手から見て正面の向きにする 3: 会社名・部署名・氏名の順に名乗りながら、両手で胸の高さに差し出す 4: 右手で渡しつつ、左手の名刺入れで相手の名刺を受け、両手に持ち替える 5: 着席し、相手の並びに合わせて机の手前に置く
| 場面 | 先に差し出す側 | 考え方 |
|---|---|---|
| 相手の会社を訪問した | 訪問した側 | 訪ねた側から先に名乗るのが筋 |
| 売り手と買い手が会う | 売り手の側 | 立場が下の側から先に出す |
| 自社に来客を迎えた | 来訪した側 | 訪問と受け入れの関係が先に立つ |
| 双方が複数で臨む | 上位者どうしが先 | 同じ側の中では役職の順に並ぶ |
- 名刺入れ
- 名刺を持ち歩き、渡すときの台にもなる入れ物。渡すときは名刺を名刺入れの上に載せ、受けるときは左手に持って受け皿にする。
- 出す順の原則
- 訪問した側から、立場が下の側から先に差し出すという慣行。役職の上下は同じ側の中や、複数対複数のときの順番を決める基準。
- 同時交換
- 双方が同時に名刺を差し出す形。右手で渡し、左手の名刺入れで受け、受け取ったら両手に持ち替える。
- 名刺の置き方
- 着席後、相手の座っている並びに合わせて机の手前に置くこと。1枚のときは名刺入れの上に載せる。
- 名刺を切らしたとき
- その事実をわびて口頭で名乗り、後日あらためて渡すか郵送する対応。黙って受け取るだけでは相手に連絡先が残らない。
- 頂戴する
- 名刺を受け取るときに使う言い方。「頂戴いたします」と述べて両手で受けると、動作と言葉がそろう。
- 名刺の管理
- 受け取った名刺は氏名・所属・連絡先を含む個人情報なので、社内のルールに従って保管し、廃棄も定められた方法で行う。
例題 先方が先に名刺を差し出してきた。どう対応するか。
まず両手で受け、「申し遅れました」と添えてから自分の名刺を渡す。本来は訪問した側から先に出すが、遅れた事実に触れて続ければ流れは乱れない。
例題 自分と上司の2名で訪問し、先方も2名が出てきた。どの順で交換するか。
双方の上位者どうしが先に交換し、続いて下位の者が交換する。下位の者が先に出ると、上位者どうしのあいさつが後回しになる。
例題 訪問先で名刺を切らしていることに気づいた。どうするか。
切らしている事実をわびたうえで口頭で名乗り、後日あらためて渡すか郵送する。上司の名刺を代わりに渡しても自分の紹介にはならない。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
紹介の順序(自社の人を先に、目下を先に)
誰を先に紹介するか。この一点で場の印象が決まります。社内と社外、目上と目下という2つの軸で覚えます。
上司を連れて取引先を訪問したとき、あるいは来客に自分の上司を引き合わせるとき、二人をつなぐのは紹介役であるあなたです。紹介の目的は、二人がその後の会話を始めやすくすることにあります。だから氏名だけを言って終わりにせず、会社名や部署、担当している業務など、話の糸口になる情報を短く添えます。逆に、出身地や家族構成といった私的な事柄や、その人への評価は、本人の同意なく持ち出しません。
順序の原則は2つです。1つは、立てるべき相手に先に情報を渡す、という考え方から出てきます。社外の人に対しては自社の人が身内にあたるので、自社の人を先に社外の人へ紹介します。もう1つは同じ側の中での話で、目下の人を先に目上の人へ紹介します。社内で部長と新入社員を引き合わせるなら、新入社員を先に部長へ紹介します。
この2つがぶつかって見える場面があります。取引先の部長と自社の社長を引き合わせるときです。役職だけを見れば社長が上ですが、社外の相手に対しては役職の高さに関係なく自社側が身内なので、自社の社長を先に取引先の部長へ紹介します。役職の上下は、同じ側の中で順番を決めるための基準であって、社内と社外の区別を越えるものではありません。同じ側に複数の人がいる場合は、上位者から順に紹介していきます。
紹介されている側の動きも決まっています。紹介が始まる前に立ち上がり、紹介のあいだは相手の方を向いて待ちます。途中で自分から名刺を出したり、補足を始めたりすると流れが切れます。紹介が終わってから自分で名乗り、名刺交換に移ります。紹介のあと会話の中で相手を呼ぶときは、氏名に様をつけるか、氏名に役職を添えます。役職だけで呼んだり、そちら様と呼んだりすると、誰を指しているのかが曖昧になります。なお、取引先から別の会社の担当者を紹介してほしいと頼まれたときは、必ず先方の担当者に確認して了解を得てから引き合わせます。連絡先は本人の情報であって、無断で第三者に渡すものではありません。
紹介の手順 1: 二人が向き合える位置に立ち、双方の注意を向ける 2: 自社の人を先に、社外の相手へ紹介する 3: 会社名・部署・氏名・担当している業務を短く添える 4: 続けて、社外の相手を自社の人へ紹介する 5: 紹介が終わったら、それぞれが名乗って名刺交換に移る
| 組み合わせ | 先に紹介する人 | 理由 |
|---|---|---|
| 自社の上司 と 取引先の担当者 | 自社の上司 | 社外の相手に対しては自社の人が身内にあたる |
| 自社の社長 と 取引先の部長 | 自社の社長 | 役職の高さは社内と社外の区別を越えない |
| 社内の部長 と 社内の新入社員 | 新入社員 | 同じ側の中では目下の人を先に紹介する |
| 同じ側に複数いる | 上位者から順に | 同じ側の中の順番は役職の順で決める |
- 紹介の順序
- 自社の人を先に社外の人へ、目下の人を先に目上の人へ紹介するという原則。立てるべき相手に先に情報を渡す、と考えると迷わない。
- 身内と社外
- 社外の相手に対しては、自社の人は役職にかかわらず身内として扱う。だから自社の社長でも、取引先の部長へ先に紹介する。
- 引き合わせ
- 面識のない二人をつなぐ行為。所属と担当を短く添えると、二人がその後の会話を始めやすくなる。
- 紹介中の姿勢
- 紹介が始まる前に立ち上がり、終わるまで待ってから自分で名乗る。途中で名刺を出したり話し始めたりしない。
- 紹介の同意
- 第三者を紹介するときは、あらかじめ本人の了解を得ること。連絡先や名刺は本人の情報であり、無断で渡さない。
- 呼び方
- 紹介のあとは氏名に様をつけるか、氏名に役職を添えて呼ぶ。役職だけ、そちら様、下の名前は避ける。
例題 自社の課長と取引先の部長を引き合わせる。どちらを先に紹介するか。
自社の課長を先に、取引先の部長へ紹介する。役職では部長が上だが、社外の相手に対しては自社の人が身内にあたるため、身内から先に紹介する。
例題 社内で、部長に新入社員を引き合わせる。どちらを先に紹介するか。
新入社員を先に部長へ紹介する。同じ側の中では、目下の人を先に目上の人へ紹介する。
例題 取引先から、別の会社の知り合いを紹介してほしいと頼まれた。どうするか。
先に本人へ紹介してよいか確認し、了解を得てから引き合わせる。連絡先や名刺の情報を無断で渡すのは避ける。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
訪問(アポ取り・到着・コート・受付・応接室・辞去)
訪問は玄関を入る前から始まっています。約束の取り方から辞去のあいさつまで、時間の流れに沿って型をなぞります。
まず約束を取ります。電話でもメールでも、伝える内容は同じです。用件、およその所要時間、希望日時の候補を複数、同行者がいればその人数と氏名。相手はこれが分かって初めて、誰が出るか、どの部屋を使うか、何を用意するかを決められます。日時は相手の都合を優先します。決まったら、日時・場所・先方の部署と担当者の氏名・行き方を控え、前日に予定を確認します。変更や中止は、分かった時点ですぐ連絡します。
当日は、建物には10分前に着き、化粧室や近くで身支度を整えてから、受付に出るのを約束の5分前にそろえます。30分も早く受付に出ると、準備中の相手を呼び出すことになり、かえって迷惑をかけます。時刻ちょうどの到着では、受付から部屋まで移動する時間の分だけ遅れます。交通機関の乱れで遅れそうなときは、分かった時点で先方に電話し、事情と到着の見込みを伝えて指示を仰ぎます。メールは相手が見ているとは限らないので、急ぎの連絡には使いません。
コートは相手の建物に入る前に脱ぐのが慣行です。外のほこりを持ち込まない、という考え方から来ています。脱いだコートは裏地を外側にして腕にかけて持ち、傘は入口の傘立てか傘袋に入れます。受付では、会社名と自分の氏名、約束の相手の部署と氏名、約束の時刻を告げます。この4つがそろえば取り次げます。用件の中身まで受付で説明する必要はありません。
応接室に通されたら、勧められた席に座ります。訪問者は下座、という原則はありますが、迎える側が席を勧めたときは素直に従うのが礼にかないます。案内がない場合は下座で待ちます。かばんは足元に置き、机や隣の椅子には置きません。部屋にある資料や掲示物は手に取らず、出された飲み物は担当者が来て勧められてから口をつけます。担当者が入ってきたら立ち上がってあいさつします。
用件が済んだら、こちらから切り上げます。相手は言い出しにくい立場なので、待っていると必要以上に長引きます。礼を述べ、資料を片づけ、コートは建物を出てから着ます。エレベーターまで見送ってもらったときは、乗ってから向き直り、扉が閉まるまで頭を下げます。見送る側は扉が閉まるまで立っているからです。訪問した翌日には、礼とあわせて、その場で決まったことと次にすることを整理して担当者に伝えると、認識のずれが残りません。
受付での名乗りの手順 1: 建物に入る前にコートを脱ぎ、腕にかけて持つ 2: 受付で会社名と自分の氏名を告げる 3: 約束の相手の部署と氏名を告げる 4: 約束の時刻を告げる(14時にお約束をいただいております) 5: 案内に従って移動し、応接室では勧められた席に座る
| 時点 | 目安 | すること |
|---|---|---|
| 前日 | 夕方までに | 日時・場所・担当者名と行き方を確認する |
| 当日 | 約束の10分前 | 建物に着き、身支度を整える |
| 当日 | 約束の5分前 | コートを脱いでから受付で名乗る |
| 遅れそうなとき | 分かった時点で | 電話で事情と到着の見込みを伝える |
| 翌日 | 午前中を目安に | 礼と、決まったこと・次にすることを伝える |
- アポイントメント
- 訪問の約束。用件、所要時間、希望日時の候補、同行者の人数を伝えて取りつける。日時は相手の都合を優先する。
- 5分前の受付
- 受付に出るのは約束の5分前が目安。建物には10分前に着き、身支度を整えてから受付に向かう。早すぎる到着も相手の準備を急がせる。
- コートの扱い
- 相手の建物に入る前に脱ぐ慣行。裏地を外側にして腕にかけて持ち、帰りは建物を出てから着る。
- 受付での名乗り
- 会社名、自分の氏名、約束の相手の部署と氏名、約束の時刻の4つを告げること。用件の中身まで説明する必要はない。
- 下座で待つ
- 案内がないときは下座に座って待つこと。ただし迎える側に席を勧められた場合は、その席に座るのが礼にかなう。
- 辞去
- 訪問先を辞すること。用件が済んだら訪問した側から切り上げるのが、相手の時間を尊重する形になる。
例題 午後2時の約束で訪問する。受付に出るのは何時ごろがよいか。
午後1時55分ごろが目安。建物には10分前に着いて身支度を整え、受付に出るのを5分前にそろえる。30分も早いと相手を準備中に呼び出すことになる。
例題 応接室で、上座にあたる席を勧められた。どうするか。
勧めに従ってその席に座る。訪問者は下座という原則はあるが、席を勧めるのは迎える側の心遣いなので、素直に従うのが礼にかなう。担当者が入ってきたら立ち上がる。
例題 担当者がエレベーターまで見送ってくれた。乗ったあとどうするか。
乗ってから向き直り、扉が閉まるまで頭を下げる。見送る側は扉が閉まるまで立っているので、先に背を向けると気持ちが行き違う。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
席次
席次の基本と部屋の座り方(応接室・会議室・和室)
「どこに座ってもらえばいいのか」で固まらないために、入口から遠い席が上座という原則と、応接室・会議室・和室への当てはめ方を身につけます。
席次とは、その場にいる人の立場に応じて座る位置を決める慣行です。法律で決まっているわけではなく、相手を立てる気持ちを目に見える形にした約束事にすぎません。ただし約束事だからこそ、知らずに逆をやってしまうと「軽んじられた」と受け取られることがあります。基本はたった一つ、出入口から最も遠い席が上座、出入口に最も近い席が下座(末席)です。人の出入りで落ち着かない、廊下の音が入る、扉が急に開く、そうした落ち着かなさから遠い場所ほど上位という考え方だと理解しておくと、初めての部屋でも自分で判断できます。
応接室では、これに家具の格が加わります。長椅子(ソファ)は一人掛けの椅子より上位とされるので、長椅子と一人掛けが向かい合う応接セットなら、入口から遠い側の長椅子がいちばんの上座です。同じ長椅子の中でも、入口から遠い側が上、入口に近い側が下になります。来客を通したら「どうぞ奥へおかけください」と手のひらで示して座っていただき、自社側は入口に近い側に座ります。お茶を出すときも上座から順に、来客側を先に、自社側を後にします。
会議室では、長机を挟んで向かい合う形が一般的です。入口から遠い列が来客側、入口に近い列が自社側になります。列の中の順位は、中央寄り(議長席や進行役に近いほう)を上位とする流儀と、出入口から遠い順とする流儀があります。分かれるところなので、席札や勤務先のやり方があればそれに従います。出入口が2か所ある部屋では、実際に人が多く出入りする主たる入口を基準にしてください。プロジェクターの正面やホワイトボードが見やすい位置など、その部屋の使い方によって最適な席が変わることもあるので、迷ったら「見やすいのはこちらですので、どうぞ」と理由を添えて案内すると角が立ちません。
和室では、入口からの距離ではなく床の間が基準になります。床の間の前、つまり床の間を背にする席が上座で、ふすまなど出入口に近い席が下座です。掛け軸や花を背にする位置が最も格が高い、という考え方によります。座布団は勧められてから座り、座布団の上を立ったまま歩いたり、自分で位置をずらしたりしないのが作法とされています。なお、こちらが下座に座ろうとしたのに先方から上座を勧められることがあります。一度は遠慮を示しつつ、重ねて勧められたら礼を述べて座ってください。断り続けることは、もてなそうとした相手の面目をつぶすことになり、席次の目的から外れます。
席次を決める手順 1. 出入口の位置を確認する。複数あるときは人が主に使う入口を基準にする 2. その入口から最も遠い席を上座とし、近い席を下座とする 3. 長椅子と一人掛けがあれば、長椅子のほうを上位に読み替える 4. 和室なら基準を入口ではなく床の間に置き換え、床の間の前を上座とする 5. 上位者の体調や希望があれば、原則よりそちらを優先する
| 順位 | 席の位置 | そう決まる理由 |
|---|---|---|
| 1 | 入口から最も遠い長椅子の、さらに奥側 | 入口から最も遠く、しかも長椅子は一人掛けより上位 |
| 2 | 同じ長椅子の入口寄り | 同じ家具の中では入口に近いほど下位になる |
| 3 | 入口から遠い側の一人掛けの椅子 | 位置は奥だが、家具の格が長椅子より下 |
| 4 | 入口に最も近い一人掛けの椅子 | 出入りに近い末席。案内する側や自社の若手が座る |
- 上座
- その場でいちばん立場が上の人が座る席。原則として出入口から最も遠い席。和室では床の間の前、円卓でも出入口から最も遠い席にあたる。
- 下座・末席
- 出入口に最も近い席。お茶出しや取り次ぎ、会計など動く役割を担う人が座る。若手や幹事、案内する側の席。
- 応接セット
- 長椅子(ソファ)と一人掛けの椅子、机を組み合わせた応接室の家具。長椅子のほうが一人掛けより上位とされる。
- 床の間
- 和室の壁の一部を一段高くし、掛け軸や花を飾る場所。その前が上座になる。和室ではこれが席次の基準となる。
- 案内する側
- 来客を部屋へ導き、席を勧め、お茶を出す側。原則として下座に座り、扉や動線に近い位置を引き受ける。
- 慣行
- 法律や規則ではなく、広く行われてきたことで定着した約束事。席次はこれにあたり、業界や会社によって細部が異なる。
例題 来客2名、自社2名で応接室を使う。どう座ってもらうか。
入口から遠い側の長椅子に来客2名、入口に近い側に自社2名。来客側も自社側も、それぞれの列の中で入口から遠いほうに上位者が座る。案内するときは「どうぞ奥へおかけください」と手のひらで示す。
例題 出入口が2か所ある会議室に来客を通した。どちらを基準に上座を決めるか。
人が実際に多く出入りする主たる入口を基準にし、そこから遠い側を上座とする。どちらも同程度に使われるなら、廊下側から遠いほうを上座と考え、「こちらへどうぞ」と明示して案内すればよい。
例題 床の間のある和室に通されたが、席を勧められる前に部屋に入ってしまった。どうするか。
床の間の前は上座なので、勧められるまでは出入口に近い下座側で控える。座布団も勧められてから座る。上座を勧められたら一度遠慮を示し、重ねて勧められたら「失礼いたします」と述べて座る。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
乗り物の席次(タクシー・自家用車・列車・エレベーター)
同じ「車」でも、ハンドルを握るのが誰かで上座が入れ替わります。タクシー、相手の運転する自家用車、列車、エレベーターの4つを、理由ごと覚えます。
タクシーやハイヤーのように、運転するのが第三者であるプロの運転手の場合、上座は運転席の後ろです。乗り降りが落ち着いてでき、車内で最も安全とされる位置だからです。次いで助手席の後ろ、後部座席に3人座るなら中央、そして助手席が末席になります。助手席が末席なのは、そこに座る人が運転手に行き先を伝え、道順を確認し、料金の精算や領収書の受け取りをするからです。つまり「いちばん働く席」が末席であり、位置の格そのものというより役割で決まっていると考えると腑に落ちます。
これがそのまま裏返るのが、取引先の方や自社の上司が自分でハンドルを握る自家用車です。この場合は助手席が上座になります。運転している人を一人にせず、隣で話し相手になるのが同乗者の礼儀とされるからです。タクシーの「運転席の後ろが上座」を自家用車に持ち込むと、運転してくれている相手を運転手扱いすることになり、かえって失礼になります。判断の分かれ目は車種でも距離でもなく、運転するのが第三者か、相手方または身内かという一点です。
列車では、進行方向を向いた窓側が上座とされます。景色が見え、後ろ向きで生じやすい乗り物酔いの負担も少ないためです。新幹線などで3人掛けを使う場合は、窓側が上位、次いで通路側、両側を挟まれて最も窮屈な中央が下位とされます。人の行き来がある通路側や中央を自分が引き受けるのが一般的です。ただしここでも、足を伸ばしたい、途中で降りる、といった事情があれば本人の希望が優先します。席次はもてなしの手段であって、目的ではありません。
エレベーターは、位置ではなく操作盤が基準です。操作盤の前は、行き先階を押し、扉の開閉を保ち、乗り降りを見守る役目があるので末席です。奥、特に操作盤から見て奥側が上座になります。誰も乗っていないかごなら、案内する側が先に乗り込んで操作盤を押さえ、扉を開けたまま来客を迎え入れます。降りるときは来客が先です。逆に、すでに何人か乗っていて操作盤を確保する必要がないときは、扉を手で押さえて来客に先に乗ってもらいます。「来客が先」という言葉だけを覚えて乗り降りの両方に当てはめると、扉を押さえる人がいなくなってしまうので、なぜそうするのかで覚えてください。
エレベーターで来客を案内する手順 1. 到着したかごに人が乗っているかを見る 2. 誰も乗っていなければ自分が先に乗り、操作盤の前に立つ 3. 開くボタンを押したまま「どうぞ」と来客を迎え入れる 4. すでに人が乗っていれば、扉を手で押さえて来客に先に乗ってもらう 5. 行き先階を押し、到着したら開くボタンを押して来客に先に降りてもらう 6. 自分は最後に降り、進む方向を手で示して案内を続ける
| 順位 | 席 | その席の役割 |
|---|---|---|
| 1 | 運転席の後ろ | 最上位者。乗り降りが落ち着いてできる |
| 2 | 助手席の後ろ | 次席。歩道側から乗り降りする |
| 3 | 後部座席の中央 | 後部に3人座る場合の下位。最も窮屈な席 |
| 4 | 助手席 | 末席。行き先を伝え、料金を精算する |
- ハイヤー
- 運転手付きで貸し切る車。運転するのが第三者である点はタクシーと同じで、席次の考え方も同じになる。
- 助手席
- 運転席の隣。運転手が第三者なら末席、相手方や身内が運転する自家用車なら上座と、状況で逆になる席。
- 操作盤
- エレベーター内の階数ボタンと開閉ボタンの並んだ盤。この前に立つ人が操作を担うため、そこが末席になる。
- 進行方向
- 列車が進んでいく向き。これを向いた窓側が上座とされ、背にした席より上位に扱われる。
- 動線
- 人が移動する道筋。席次を判断するとき、出入口や通路との位置関係を見るのは、この動線から遠いほど落ち着けるという考えによる。
例題 取引先の部長、自社の課長、自分の3人でタクシーに乗る。どう座るか。
最上位の取引先の部長が運転席の後ろ、自社の課長が助手席の後ろ、自分が助手席。自分は運転手に行き先を伝え、降車時に精算して領収書を受け取る。
例題 取引先の担当者が自分で運転する車に、上司と自分が同乗する。どう座るか。
運転するのが相手方の人なので助手席が上座。上司が助手席、自分は後部座席に座る。タクシーの感覚で上司を運転席の後ろに案内すると、運転してくれている相手を運転手扱いすることになる。
例題 無人のエレベーターに来客と乗る。乗るときと降りるときで誰が先か。
乗るときは自分が先で、操作盤の前に立ち扉を押さえる。降りるときは来客が先。乗り降りとも来客を先にすると、扉を押さえる人がいなくなる。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
移動中の案内と会食の席次(廊下・階段・宴席・円卓)
座る前後の時間にも席次の考え方は続きます。廊下と階段の歩き方、宴席での幹事の位置、中華の円卓の回り方までをまとめて押さえます。
廊下では、中央が上位、壁側が下位とされます。来客には中央側を歩いていただき、案内する側は2、3歩斜め前を歩いて進む方向を示します。真後ろを歩くと道順を示せず、真正面に立って後ろ向きに歩くのは危険です。曲がり角では一度立ち止まり、手のひらをそろえて方向を示してから曲がります。指を1本立てて指し示すのは避けてください。歩く速さは相手に合わせ、時々振り返って距離を確かめると、置いていく形になりません。
階段については、上りは案内者が先か後か、下りはどうかで説明が分かれます。分かれる以上、どちらが正解と決めつけるより、安全と分かりやすさを優先するのが実務的です。共通して言えるのは、来客に手すり側を歩いていただくこと、上がる前に「3階の応接室へご案内いたします」と行き先を伝えておくこと、そして相手を見下ろしたり、真後ろに密着したりしないことです。狭い階段では「お先に失礼いたします」と一言添えて先に立てば、順序の議論そのものが問題になりません。
会食や宴席でも、基準は変わりません。座敷なら床の間の前が上座で主賓の席、出入口に最も近い席が下座で幹事の席です。幹事が下座に座るのは、注文、追加の飲み物、店の人とのやり取り、そして会計のために動くからです。案内する順序も決まっていて、主賓が着席してから他の出席者が座ります。コートや大きな荷物を預ける場所を先に案内しておくと、席についてから慌てずにすみます。
中華料理の円卓は丸いので迷いがちですが、やはり出入口から最も遠い席が主賓の席、出入口に最も近い席が招いた側の主人の席です。主賓の左隣が第2席、右隣が第3席で、以下、主賓から左右交互に遠ざかるほど下位になります。日本では左を上とする「左上位」の考え方によりますが、国際儀礼や中国式では右を上とすることもあるので、席札や主催者の案内があればそれに従います。回転卓は主賓から時計回りに回すのが一般的で、自分が取ったら次の人が取りやすい位置で止めます。立食形式のパーティーには着席の席次そのものがありませんが、主賓や上位者への挨拶は必要で、置かれた椅子は休憩用と考えてください。
会食で幹事が行う手順 1. 部屋の出入口と床の間の位置を、開始前に自分の目で確かめる 2. 出入口から最も遠い席を主賓の席と決める 3. 主賓の左隣、右隣の順に上位者を配置する 4. 自分は出入口に最も近い席に座り、店の人と話せる位置を確保する 5. 到着した人をコート掛けから席まで案内する 6. 主賓の着席を待ってから、他の出席者に座ってもらう
| 順位 | 席の位置 |
|---|---|
| 1 | 出入口から最も遠い席。主賓が座る |
| 2 | 主賓の左隣 |
| 3 | 主賓の右隣 |
| 4 | 第2席のさらに左隣。主賓から左右交互に遠ざかる席 |
| 最下位 | 出入口に最も近い席。招いた側の主人や幹事が座る |
- 主賓
- その会でいちばん立てるべき客。会食では上座に案内し、着席も挨拶も乾杯も主賓を起点に組み立てる。
- 幹事
- 会の段取りと進行、会計を担う人。動きやすいよう出入口に最も近い下座に座る。
- 左上位
- 同格の中では左側を上とする考え方。円卓で主賓の左隣を第2席、右隣を第3席とするのはこれによる。国際儀礼や中国式では右を上とすることもある。
- 回転卓
- 円卓の中央に置かれた回る台。主賓から時計回りに回し、取り終えたら次の人が取りやすい位置で止める。
- 立食形式
- 着席せず立ったまま飲食し歓談する形式。着席の席次はないが、主賓や上位者への挨拶は省かない。
例題 来客を3階の応接室へ階段で案内する。何から始めるか。
まず「3階の応接室へご案内いたします」と行き先を伝える。来客には手すり側を歩いていただき、狭ければ「お先に失礼いたします」と断って先に立つ。上りが先か後かで迷うより、行き先を伝え安全な側を勧めるほうが実務的。
例題 座敷の宴席で幹事を務める。自分はどこに座るか。
出入口に最も近い下座。注文や追加の飲み物、店の人とのやり取り、会計のために動く必要があるため。床の間の前は主賓の席なので座らない。
例題 円卓で主賓が決まった。第2席と第3席はどこか。
主賓の左隣が第2席、右隣が第3席。以下、主賓から左右交互に遠ざかるほど下位になり、出入口に最も近い席が招いた側の主人の席になる。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
電話応対
電話の受け方と取り次ぎ(3コール・名乗り・保留)
顔が見えないぶん、声と言葉だけが会社の印象になります。出るまでの速さ、第一声、取り次ぎ、保留という受け方の型を手順で固めます。
会社にかかってきた電話は、3コール以内に出るのが一つの目安とされています。これを過ぎたときは、名乗る前に「お待たせいたしました」と一言添えます。何もなかったように名乗ると、待った時間がなかったことにされたように感じられるためです。第一声は「はい、○○株式会社でございます」のように、「はい」に続けて社名を名乗ります。ビジネスの電話では「もしもし」は使いません。くだけた呼びかけと受け取られるうえ、名乗りが遅れて相手が誰にかけたのか分からない時間ができてしまいます。
受話器を取る前の準備も、実は勝負どころです。メモ用紙とペンを電話のそばに常備し、書けるよう利き手を空けて反対の手で受話器を持ちます。受話器を取ってからペンを探すと、その数秒で社名や名前を聞き逃します。相手が名乗ったら「○○株式会社の△△様でいらっしゃいますね。いつもお世話になっております」と復唱して確認し、あいさつを述べます。復唱は、聞き取れているときでも取り違えを防ぐ意味があるので省きません。
名指し人へ取り次ぐときは、必ず保留にしてから声をかけます。受話器を手でふさいでも社内の会話は相手に聞こえることがあり、「今日は誰々が来てるから」といった内輪の声が漏れると取り返しがつきません。取り次ぐ際は、誰からの電話かを名指し人に伝えてから代わります。保留は30秒程度が目安で、それを超えそうなら一度出て「申し訳ございません、もう少しお時間をいただけますでしょうか」と状況を伝えるか、折り返しを提案します。保留のまま放置されると、相手は切ってよいのか待つべきかが分からず不安になります。
取り次ぎでもう一つ注意したいのが、自社の人をどう呼ぶかです。社外の相手に対して自社の上司は自分側の人物として扱うので、「田中部長は席を外していらっしゃいます」のように敬称や尊敬語を使うと誤りになります。文化庁の「敬語の指針」は、取引先に対して自社の田中部長のことを話す場面を取り上げ、「田中」と呼ぶことに問題はなく、「部長の田中」のように職階を示したうえで呼ぶこともできるが、「田中部長」という呼び方は自分側として扱った呼び方にならないため不適切だと説明しています。「部長の田中は、ただいま席を外しております」が安全な形です。
電話の受け方 5手順 1. 3コール以内に受話器を取り、「はい」に続けて社名を名乗る 2. 相手の社名と氏名を聞き、復唱して確認し、あいさつを述べる 3. 用件を聞き、日時・数量・固有名詞をメモに書き取る 4. 名指し人がいれば保留にし、誰からの電話かを伝えて代わる 5. 自分で対応した場合は要点を復唱し、自分の名前を伝えてから切る
| 状況 | 言い方 |
|---|---|
| 3コール以内に出た | はい、○○株式会社でございます |
| 3コールを超えて出た | お待たせいたしました、○○株式会社でございます |
| 相手が名乗った | △△株式会社の□□様でいらっしゃいますね。いつもお世話になっております |
| 名指し人に取り次ぐ | 田中でございますね。少々お待ちくださいませ |
| 名指し人が不在 | あいにく田中は席を外しております。15時ごろ戻る予定でございます |
- 3コール
- 電話に出るまでの目安とされる呼び出し音の回数。超えた場合は「お待たせいたしました」を第一声に添える。
- 名指し人
- 相手が話したいと指名してきた社内の相手。取り次ぐ前に、誰からの電話かを本人に伝える。
- 保留
- 通話を一時的に止めて相手に待ってもらう機能。目安は30秒程度で、超えるときは一度出て状況を伝える。
- 復唱
- 聞き取った社名・氏名・日時・数量を繰り返して確認すること。聞き取れていても取り違え防止のため行う。
- ウチとソト
- 自分側の人物か、それ以外かという区別。社外の相手に対しては、自社の上司も自分側として扱い敬称を付けない。
- 第一声
- 電話に出て最初に発する言葉。「はい」に続けて社名を名乗るのが基本で、ビジネスでは「もしもし」を使わない。
例題 呼び出し音が6回鳴ってから出た。第一声は何と言うか。
「お待たせいたしました、○○株式会社でございます」。待たせた事実に一言触れてから名乗る。何もなかったように名乗ると相手の待ち時間を無視したことになり、出たとたんに保留にするのはさらに待たせることになる。
例題 取引先から「田中部長をお願いします」と言われ、田中部長が外出中だった。どう伝えるか。
「あいにく部長の田中は外出しております。15時ごろ戻る予定でございます」。社外の相手に自社の上司を「田中部長」と呼ぶのは自分側として扱った呼び方にならないので、「部長の田中」と職階を示す形にする。
例題 名指し人がすぐに見つからず、保留が1分近くになりそうだ。どうするか。
30秒を目安に一度保留を解いて出る。「申し訳ございません、ただいま席を確認しております。折り返しお電話を差し上げてもよろしいでしょうか」と、待つか折り返すかを相手に選んでもらう。
出典:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)第3章 敬語の具体的な使い方/※ そのほかは公的な定めのない商慣行です
不在対応と伝言メモ、電話のかけ方
名指し人がいないときこそ受けた人の腕の見せどころです。不在の伝え方と伝言メモの型、そしてこちらからかけるときの段取りを押さえます。
名指し人が不在のときは、まず不在であることと戻りの見込みを伝えます。「あいにく席を外しております。15時ごろ戻る予定でございます」のように、事実と目安をセットにするのが要点です。不在の理由を細かく説明する必要はなく、「私用で出かけております」「病院に行っております」のように私的な事情をそのまま伝えるのは避けます。本人の携帯番号を無断で教えるのも同様に避け、必要なら折り返しの形にします。そのうえで、折り返しがよいか、伝言を承ってよいか、自分が代わって用件を聞いてよいかを尋ねます。
伝言を預かるときは、いつ・誰から・どんな用件で・どうしてほしいか・誰が受けたか、の5つが分かるメモにします。この5つのどれかが欠けると、名指し人が確認のために誰かに聞き直すことになり、二度手間が発生します。特に日時、数量、金額、電話番号といった数字は聞き間違いが起きやすいので、必ず復唱してください。「1時」と「7時」のように紛らわしいものは、「13時ですね」「午後7時ですね」と言い換えて確かめると確実です。最後に「私、△△が承りました」と自分の名前を伝えると、相手は誰に話したかが分かって安心します。
メモは机に置くだけで終わらせないことも大切です。置いたメモは書類に紛れます。名指し人が戻ったら手渡し、口頭でも要点を伝えます。急ぎの用件であれば、本人が戻るのを待たず、携帯電話やチャットで先に知らせます。会議中であっても、いつまでに連絡が必要かを確認したうえで、メモを差し入れるなど社内で判断できる形にしてください。「会議中だから何もしない」と決めてしまうと、間に合わなくなることがあります。
こちらからかけるときは、電話をつなぐ前に用件と結論、必要な数字を箇条書きにし、資料を手元にそろえます。相手の時間を割いてもらう以上、話しながら考えをまとめるのは避けたいところです。つながったら自分の会社名と氏名を名乗り、名指し人に代わったら改めて名乗り、「ただいまお時間よろしいでしょうか」と都合を尋ねてから用件に入ります。時間帯にも配慮が要ります。始業直後、昼休み、終業間際は立て込んでいることが多いので避け、始業前や終業後にかけるのは相手の勤務時間外にあたるので避けます。切るときは、一般にかけた側が先に切るとされますが、相手が取引先や目上の場合は相手が切るのを待ち、フックを指で静かに押さえてから受話器を置きます。
電話をかける手順 1. 用件と結論、必要な数字を箇条書きにし、資料を手元に置く 2. 相手の会社名・部署・氏名・電話番号を確認する 3. 始業直後、昼休み、終業間際を避けた時間にかける 4. つながったら自分の会社名と氏名を名乗り、名指し人を伝える 5. 名指し人に代わったら改めて名乗り、話してよい時間かを尋ねる 6. 結論から用件を伝え、決まったことを復唱して確認する 7. 礼を述べ、かけた側から静かに受話器を置く
| 項目 | 書く内容 | 抜けると起きること |
|---|---|---|
| 受けた日時 | 何月何日の何時何分に受けたか | 急ぎかどうかの判断ができない |
| 相手 | 会社名・部署・氏名・電話番号 | 折り返せない、別人あてになる |
| 用件 | 何についての話か。日時や数量は数字で | 本人が電話をかけ直して聞き直すことになる |
| 先方の希望 | 折り返し希望か、伝言のみか、再度かけ直すか | 行き違いになり二度手間が起きる |
| 受けた人 | 自分の氏名 | 内容を確かめたいときに誰に聞けばよいか分からない |
- 伝言メモ
- 電話の内容を名指し人に伝えるための記録。受けた日時、相手、用件、先方の希望、受けた人の5点を書く。
- 折り返し
- こちらからかけ直すこと。相手の番号と都合のよい時間帯を確認し、いつごろかけ直すかの目安も伝える。
- 承る
- 「受ける」「聞く」の謙譲語。「私、△△が承りました」と名乗ることで、誰が対応したかを明らかにする。
- 都合を尋ねる
- 用件に入る前に「ただいまお時間よろしいでしょうか」と確かめること。相手が取り込み中なら改めてかけ直す。
- 聞き間違いやすい数字
- 1時と7時、4と7など。「13時」「午後7時」のように言い換えて復唱すると取り違えを防げる。
例題 名指し人が終日外出で、相手が折り返しを希望した。何を聞き取るか。
折り返し先の電話番号と、都合のよい時間帯。加えて用件の概要を聞ければ、本人が準備してかけ直せる。最後に「私、△△が承りました」と自分の名前を伝える。
例題 「20日の14時に10個」と言われた。確認のしかたは。
「20日の14時に、10個でございますね」と数字を区切って復唱する。数字は聞き間違いが最も起きやすく、メモを取っていても復唱で確かめる。
例題 取引先に電話したい。何時ごろが避けたい時間帯か。
始業直後、昼休み、終業間際。相手が立て込んでいる可能性が高い。始業前や終業後は勤務時間外にあたるので避ける。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
難しい場面の電話(クレーム・聞き取りにくい・携帯・言葉遣い)
苦情、聞き取れない相手、携帯電話、間違い電話。うまくいかない場面ほど型が要ります。あわせてマニュアル敬語の落とし穴も整理します。
苦情の電話は、初動でほとんど決まります。まず遮らずに最後まで聞き、要点をメモに取ります。話の途中で「それは誤解です」と指摘すると、相手は聞いてもらえなかったと感じ、話がこじれます。ひととおり聞いたら、不快な思いをさせたことについてわびます。これは責任を全面的に認めることとは別で、まだ事実関係が分からない段階でも述べられる部分です。そのうえで、いつ・何が・どうなったかの順で事実を確認し、その場で答えられることと確認が必要なことを切り分けます。答えられないことに推測で答えるのが最も危険で、後から訂正が必要になって問題を大きくします。折り返しの期限と担当者を伝え、自分の名前を名乗り、通話後すぐに上司と担当部署へ共有してください。
相手の声が聞き取りにくいときは、「声が小さくて聞こえません」のように相手を主語にした言い方を避け、「恐れ入ります、少しお電話が遠いようです」と回線側に原因を置いた言い方をします。聞こえたふりをして進めるのは最悪で、誤った内容のまま話が確定してしまいます。名前の漢字が分からないときも、その場で「恐れ入りますが、どのような字をお書きになりますか」と尋ねてください。「サイトウ様」のように書き方が複数ある姓は特に確認が必要で、推測で書くと別人あての記録になります。
相手の携帯電話にかけるときは、相手が移動中なのか会議中なのか、こちらからは分かりません。名乗ったうえで「ただいまお話ししてもよろしいでしょうか」と確かめてから用件に入ります。出ないときに間を置かず何度もかけ直すのは避け、時間を空けるか、留守番電話に会社名・氏名・用件の概要・折り返し先を残します。間違い電話がかかってきた場合も、自社にかかってきた電話である以上は応対の印象が会社の印象になります。相手が番号を言ったならこちらの番号と照らして違いを伝え、無言で切ったり相手の不注意を責めたりはしません。
最後に言葉遣いです。いわゆるマニュアル敬語には、丁寧に聞こえて実は意味がずれている言い方があります。「担当者のほうにおつなぎします」の「〜のほう」は本来は方向や複数の中の一方を指す言い方で、対象をぼかす使い方は避けたいところです。「こちらが資料になります」の「〜になります」は変化を表す言い方なので、変化しないものの説明には向きません。「よろしかったでしょうか」も、これから確かめることに過去形を使う点が不自然とされます。文化庁の「敬語の指針」も、こうしたマニュアル敬語の例として「御注文の品はおそろいになりましたでしょうか」を挙げ、「お……になる」という尊敬語の形によって品物のほうを立ててしまっている誤りだと説明し、「そろいましたでしょうか」などと言えばよいとしています。なお、「お待ちしております」のように自分の動作に「お」が付く形は、相手を立てる謙譲語Ⅰなので問題ありません。
苦情の電話を受けたときの手順 1. 遮らずに最後まで聞き、要点と時系列をメモに取る 2. 不快な思いをさせたことについてわびる 3. いつ・何が・どうなったかの順で事実を確認する 4. その場で答えられることと、確認が必要なことを切り分ける 5. 推測では答えず、折り返しの期限と担当者を伝える 6. 自分の名前を名乗り、通話後すぐに上司と担当部署へ共有する
| 避けたい言い方 | 言い換え | 理由 |
|---|---|---|
| 担当者のほうにおつなぎします | 担当者におつなぎします | 「〜のほう」は方向や一方を指す言い方で、対象をぼかしてしまう |
| こちらが資料になります | こちらが資料でございます | 「〜になります」は変化を表す言い方で、変化しないものには向かない |
| よろしかったでしょうか | よろしいでしょうか | これから確かめることに過去形を使うのは不自然 |
| もしもし、○○です | はい、○○でございます | 「もしもし」はくだけた呼びかけとされ、業務では使わない |
| 御注文の品はおそろいになりましたでしょうか | 御注文の品はそろいましたでしょうか | 「お……になる」は尊敬語の形で、品物を立ててしまう |
- 一次対応
- 苦情を最初に受けた人が行う対応。聞く、わびる、事実を確認する、折り返しの期限を約束する、の4つが柱。
- お電話が遠い
- 相手の声が聞き取りにくいときの定型表現。相手ではなく回線側に原因を置くことで、相手を責めない形にする。
- マニュアル敬語
- 接客の型として広まった言い方の総称。文化庁「敬語の指針」でも取り上げられ、敬語の形として誤っている例がある。
- 謙譲語Ⅰ
- 自分側の行為の向かう先の人物を立てる敬語。「お待ちする」「伺う」など。自分の動作に「お」が付いても誤りではない。
- 留守番電話
- 相手が出ないときに用件を残す機能。会社名、氏名、用件の概要、折り返し先の番号を簡潔に吹き込む。
例題 苦情の電話の途中で、相手の言い分に事実誤認があると気づいた。どうするか。
その場では指摘せず、最後まで聞く。ひととおり聞いたうえで不快な思いをさせた点をわび、事実確認として「念のため確認させていただきますが」と切り出す。途中で遮ると感情を悪化させ、聞くべき情報も出てこなくなる。
例題 相手の声がほとんど聞き取れない。どう伝えるか。
「恐れ入ります、少しお電話が遠いようでございます。もう一度お願いできますでしょうか」。「声が小さい」と相手を主語にせず、回線側に原因を置く。それでも難しければ、こちらからかけ直す。
例題 「担当者のほうにおつなぎします」と言ってしまった。どう直すか。
「担当者におつなぎいたします」。「〜のほう」は方向や一方を指す言い方なので、対象をぼかす使い方は避ける。丁寧さは言葉を長くすることではなく、正確に伝えることで生まれる。
出典:文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日)第3章 敬語の具体的な使い方/※ そのほかは公的な定めのない商慣行です
来客応対と案内
受付でのお迎えと取り次ぎ
来客に気づいてから担当者につなぐまでの数十秒で、会社の印象はほぼ決まります。名乗ってもらう聞き方、待たせるときの一言、担当者が不在のときの動き方を型にします。
来客に気づいたら、手元の作業を止めて立ち上がり、相手の目を見て「いらっしゃいませ」と迎えます。ここで大事なのは内容より速さです。相手から声をかけられてやっと反応する、座ったまま会釈だけで済ませる、という応対は、来客の側から見れば「無視された数秒」として残ります。受付に人が立った瞬間に体ごと向き直る、それだけで印象はほぼ決まります。
次に、会社名と氏名、用件、約束の有無を確かめます。「恐れ入りますが、御社名とお名前をお伺いできますでしょうか」のように、クッション言葉を置いてから依頼の形で尋ねます。名乗ってもらったら「○○商事の佐藤様でいらっしゃいますね」と復唱します。復唱は聞き違いを相手の目の前で消せる唯一の手段で、同時に「確かに受け止めました」という合図にもなります。約束の有無は、名乗ってもらったあとに確認する事柄で、名乗る前の条件にしてはいけません。
取り次ぐときの言い方には決まりがあります。社外の人に自社の人物のことを話すときは、その人物を自分側、つまりウチとして扱うので、敬称を付けません。「田中部長がただいま参ります」ではなく「部長の田中がただいま参ります」とします。文化庁の敬語の指針も、上司をウチ扱いにするときは「田中」あるいは「部長の田中」と呼べばよく、「田中部長」という呼び方はウチ扱いにした呼び方にはならないので不適切だと述べています。担当者に内線でつなぐときは、来客の会社名・氏名・用件・約束の有無・待ってもらっている場所を伝えます。
担当者が不在のときは、「おりません」で会話を終わらせないことです。いつ戻るか、代わりの者で用が足りるか、伝言を預かるか、折り返しの連絡でよいか。この四つを並べて来客に選んでもらうところまでが応対です。名刺や資料を託されたら、確かに預かる旨を述べ、自分の部署と氏名を名乗ってから受け取ります。誰が預かったかを相手に示しておくことが、そのまま責任の所在になります。
受付応対の6手順 1. 3秒以内に手を止めて立ち上がり、目を見て「いらっしゃいませ」 2. 「恐れ入りますが、御社名とお名前をお伺いできますでしょうか」 3. 「○○商事の佐藤様でいらっしゃいますね」と復唱する 4. 用件と、お約束の有無を確認する 5. 「確認してまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか」と断る 6. 担当者へ、社名・氏名・用件・約束の有無・待機場所を伝える
| 担当者の状態 | 来客への言い方 | 次にすること |
|---|---|---|
| 在席していて約束あり | お待ちしておりました。ただいま参りますので、こちらへどうぞ | 応接室へ案内してから内線でつなぐ |
| 在席していて約束なし | 確認してまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか | 担当部署に取り次ぎ、会えるかどうかを聞く |
| 会議中 | あいにく○○は席を外しております。○時ごろには戻る予定でございます | 戻る時刻と折り返しの可否を伝える |
| 外出していて直帰 | 本日は外出しており、戻らない予定でございます | 代理・伝言・後日の面会を並べて選んでもらう |
| 担当者が分からない | 恐れ入ります、確認いたしますので少々お待ちください | 部署名や用件から探す。知らないとは返さない |
- 取り次ぎ
- 受付や電話で受けた来客・用件を、社内の担当者につなぐこと。誰が何の用で来たかを担当者が判断できる形で伝えるところまでを含む。
- アポイント
- 事前に取り決めた面会の約束。約束の有無で受付の動き方が変わるため、名乗ってもらったあとに必ず確認する。
- クッション言葉
- 「恐れ入りますが」「差し支えなければ」のように、依頼や断りの前に置いて衝撃をやわらげる言葉。
- 復唱
- 相手が名乗った社名や氏名をその場で繰り返して確認すること。聞き違いを相手の前で正せる。
- 身内呼称
- 社外の人に自社の人物を話すとき、敬称を付けずに「部長の田中」のように呼ぶ言い方。
- 伝言メモ
- 不在者あての用件を書き残す紙。相手の社名・氏名・連絡先・用件・受けた日時・受けた人の名前を書く。
例題 来客に「田中部長はいらっしゃいますか」と聞かれた。どう答えるか。
「部長の田中でございますね。ただいま確認してまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか」。社外の人に自社の人物を話すときはウチ扱いにするので、田中部長ではなく部長の田中と呼ぶ。
例題 約束のない来客が「営業部の方に会いたい」と言ってきた。
用件と会社名を確かめたうえで営業部に取り次ぎ、会うか会わないかの返事を受付から伝える。会う会わないを受付が判断して断ると、会うべき相手を追い返す危険がある。無断で社内へ通すのも入館管理の点で問題になる。
例題 担当者が外出中で本日は戻らない。来客にどう伝えるか。
「あいにく○○は外出しており、本日は戻らない予定でございます」と事実を述べたうえで、代わりの者で足りるか、伝言を預かるか、後日あらためて時間を取るかを尋ねる。事実だけ告げて引き取らせると、来客が使った時間が無駄になる。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
廊下・階段・エレベーターの案内
案内の原則は「客より少し前を歩き、しかし客の前を塞がない」。廊下・階段・エレベーター・ドアの四場面で立ち位置と声かけを決めておけば、迷う場面はなくなります。
案内の基本は、来客の斜め前を2、3歩先で歩くことです。斜め前なら進む方向を体で示せて、しかも来客の視界を塞ぎません。真正面を歩くと背中を見せ続けることになり道もふさぎます。真横に並ぶと先導になりませんし、斜め後ろからでは来客に道を探させることになります。時々振り返って歩調を合わせ、曲がり角では手前で「こちらでございます」と声をかけます。方向を示すときは手のひらを上に向けて指をそろえ、腕全体で示します。人差し指1本で指す、あごで示す、といった所作は人に向けるものとしては避けます。
案内を始める前に「4階の第一応接室へご案内いたします」と行き先と階を告げます。これだけで来客は自分がどこへ連れて行かれるのかが分かり、歩く間の落ち着きが違います。階段では、来客を見下ろす位置に立たないよう配慮するとされ、上るときは来客が先、下りるときは案内者が先という説明が多く見られます。ただしこの先後の説明は会社や研修によって分かれるので、確実に共通しているのは、行き先の階を先に告げることと「足元にお気をつけください」と声をかけることの二つだと考えてください。
エレベーターは、かごに誰も乗っていないときと先客がいるときで動きが変わります。無人のときは「お先に失礼します」と断って案内者が先に乗り、操作盤の前に立って扉を押さえます。来客を先に乗せると、扉の開閉を来客に任せることになるためです。すでに人が乗っているときは、扉を外から手で押さえて来客に先に乗ってもらい、自分は後から乗って操作盤の近くに立ちます。降りるときはどちらの場合も、案内者が開くボタンを押して扉を押さえ、来客に先に降りてもらいます。操作盤の前が案内する側の位置になるのは、席次の考え方で操作盤の前が末席とされることとも一致します。
ドアは、開く向きで動きが逆になります。手前に引いて開ける外開きの扉は、開けた案内者がその位置のまま扉を押さえていられるので、自分は外側に立ったまま「どうぞ」と来客を先に通します。奥に押して開ける内開きの扉は、外に立ったままでは押さえ続けられないので、「失礼します」と言って案内者が先に入り、内側から扉を押さえて来客を通します。覚えるべき判断基準は「来客を先に」ではなく「来客に扉を触らせない」です。この一つで両方の向きに答えが出ます。
案内のときの声かけ 「4階の第一応接室へご案内いたします」と行き先を先に告げる 「こちらへどうぞ」と手のひらを上に向けて方向を示す 曲がり角の手前で「こちらでございます」 階段では「足元にお気をつけください」 エレベーターでは「お先に失礼します」と断って先に乗る 応接室では「こちらへおかけください」と上座をすすめる
| 場面 | 案内者 | 来客 |
|---|---|---|
| 廊下 | 斜め前を2、3歩先で歩く | 中央寄りを歩いてもらう |
| エレベーターに誰もいない | 先に乗り、操作盤の前で扉を押さえる | 後から乗って奥へ |
| エレベーターに先客がいる | 扉を外から押さえ、後から乗る | 先に乗ってもらう |
| エレベーターを降りる | 開くボタンを押して最後に降りる | 先に降りてもらう |
| 外開きの扉 | 扉を引き、外側で押さえたまま待つ | 先に入ってもらう |
| 内開きの扉 | 先に入り、内側から扉を押さえる | 後から入ってもらう |
- 斜め前
- 来客の進行方向に対して斜め前方の位置。案内者の基本の立ち位置で、方向を示しつつ視界を塞がない。
- 誘導の手
- 手のひらを上に向け、指をそろえて腕全体で方向を示す所作。指1本で指すのは避ける。
- 外開き
- 手前に引いて開ける扉。案内者が引いて押さえ、来客を先に通す。
- 内開き
- 奥に押して開ける扉。案内者が先に入り、内側から押さえて来客を通す。
- 操作盤
- エレベーターの階数ボタンと開閉ボタンの並んだ面。席次では末席にあたり、案内者が立つ位置。
- 上座
- 入口から遠い側の席。応接室では来客にこちらをすすめる。
例題 廊下で来客を案内している。どの位置を歩くか。
来客の斜め前を2、3歩先。時々振り返って歩調を合わせる。真正面だと背中を向け続けて道もふさぎ、真横だと先導にならない。
例題 誰も乗っていないエレベーターに来客と乗る。どちらが先か。
「お先に失礼します」と断って案内者が先に乗り、操作盤の前で扉を押さえる。降りるときは逆に、扉を押さえて来客に先に降りてもらう。
例題 応接室の扉が奥に押して開く向きだった。どう通すか。
「失礼します」と言って案内者が先に入り、内側から扉を押さえて来客を通す。手前に引く扉なら、外側で押さえたまま来客を先に通す。判断基準は来客に扉を触らせないこと。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
お茶の出し方と見送り
応接室に通してからが本番です。上座のすすめ方、お茶を出す順序と置く位置、茶托の扱い、そして扉が閉まりきるまでの見送りを、ひと続きの所作にします。
応接室に通したら、入口から遠い側の席、つまり上座を手で示して「こちらへおかけください」とすすめます。入口に近い席は下座なので、来客に案内する席ではありません。来客が別の席を選んだ場合は無理強いしません。コートを着たままなら「お預かりいたします」と申し出ます。申し出るところまでが応対で、預けるかどうかは来客が決めることです。断りなく背後に回って脱がせるのは、相手の身体に触れる行為なので許されません。
お茶を運ぶときは、扉の前で盆をサイドテーブルなどに一度置ける状態にしてから、ノックをして返事を待ち、「失礼いたします」と言って入ります。返事を待つのは、来客と担当者の話を不意に断ち切らないためです。出す順序は、まず来客側の上位者から、来客側を全員出し終えてから自社側の上位者へ移ります。自社の部長を来客より先に出すと、身内を客より上に置いたことになります。置く位置は来客の右斜め前が基本で、書類が広がっているときは無断で動かさず、「こちらに置かせていただきます」と断って空いている場所に置きます。
茶碗と茶托は別々に運び、置く直前に茶碗を茶托に乗せてから出します。乗せたまま運ぶと、かたむきでこぼれた茶が茶托を濡らし、汚れた茶托をそのまま来客の前に出すことになるからです。茶碗に絵柄があれば来客から見て正面になるように向け、両手で扱います。木目のある茶托は木目が来客と平行になるように置くとも言われますが、この種の細部は会社や地域で説明が分かれるので、まずは別々に運ぶこと、両手で出すこと、客側から順に出すことを固めてください。出し終えたら盆を体の脇に持ち、出口で一礼して静かに扉を閉めます。
見送りは、応接室の前で終える、エレベーターホールまで出る、玄関まで出る、車まで見送る、と相手との関係や社内の慣習で範囲が変わります。範囲がどこであっても共通するのは終わり方です。エレベーターなら「本日はありがとうございました」と述べ、扉が閉まりきるまで頭を下げたまま待ちます。閉まる直前に頭を上げると、来客の目には途中で切り上げたように映ります。帰る前に、預かったコートや荷物を返したか、忘れ物がないかを確かめておきます。帰ってしまってからでは取り返しがつきません。
お茶出しの7手順 1. 扉の前でノックを2、3回、返事を待って「失礼いたします」 2. 盆をサイドテーブルか下座側にいったん置く 3. 茶碗を茶托に乗せ、絵柄を来客から見て正面に向ける 4. 来客側の上位者から順に出し、来客を出し終えてから自社側へ 5. 来客の右斜め前、書類にかからない位置へ両手で置く 6. 出し終えたら盆を体の脇に持つ 7. 出口で一礼し、「ごゆっくりどうぞ」と言って静かに閉める
| 場面 | 動作 | そのときの一言 |
|---|---|---|
| 応接室に通す | 入口から遠い席を手で示す | こちらへおかけください |
| お茶を持って入室 | ノックして返事を待ってから入る | 失礼いたします |
| お茶を出す | 来客側の上位者から順に、右斜め前へ | どうぞ |
| 書類が広がっている | 無断で動かさず空いた場所を選ぶ | こちらに置かせていただきます |
| 退出 | 盆を体の脇に持ち、一礼して静かに閉める | ごゆっくりどうぞ |
| 見送り | 扉が閉まりきるまで頭を下げる | 本日はありがとうございました |
- 上座
- 入口から遠い側の席。応接室では来客にこちらをすすめる。
- 下座
- 入口に近い側の席。出入りや取り次ぎをする側が座る。
- 茶托
- 茶碗の下に敷く受け皿。茶碗とは別に運び、出す直前に乗せる。
- サイドテーブル
- 応接室の隅などに置く小机。盆をいったん置く場所として使う。
- 預かり物
- 来客から託されたコート・名刺・資料など。受け取った人の責任になるので、名乗ってから受け取る。
- 見送り
- 帰る来客に付き添って送り出すこと。扉が閉まる、車が見えなくなる、といった区切りまで頭を下げる。
例題 来客2名と自社の部長・担当者がいる。お茶はどの順で出すか。
来客の上位者、来客のもう1名、自社の部長、自社の担当者の順。客側を全員出し終えてから自社側へ移り、それぞれの中では上位者が先。
例題 テーブルに書類が広げられていてお茶を置く場所がない。
「こちらに置かせていただきます」と断って空いている場所に置く。来客の書類に無断で触れない。手渡しは相手の手をふさぎ、打ち合わせの終了まで待てば出す意味がなくなる。
例題 エレベーターホールで来客を見送る。どこまでが見送りか。
「本日はありがとうございました」と述べ、扉が閉まりきるまで頭を下げたまま待つところまで。扉が開いた時点で引き返すのは見送りにならない。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
ビジネス文書とメール
社外文書の型(頭語・結語・記書き)
社外に出す文書は、順序と対の決まった部品でできています。頭語と結語の組み合わせ、時候の挨拶の位置、本題を箇条にまとめる記書きまで、崩してはいけない骨格を押さえます。
社外文書は上から、発信日付・宛名・発信者名・件名・本文・記書き・以上・担当者連絡先という順で並びます。日付は文書を出した日を書いて先頭に置きます。あとで照会するときの手がかりになる記録だからです。宛名は左、発信者名は右に置くのが一般的な形。件名は「新製品説明会開催のご案内」のように、何についての、どういう性格の文書かが一行で分かる名前にします。文化庁の「公用文作成の考え方」も、標題では主題と文書の性格を示し、報告・提案・回答・開催といった言葉を使うようにと述べており、この考え方は社外文書の件名にもそのまま当てはまります。
本文は、頭語から始めて、前文、主文、末文と続き、結語で閉じます。前文は時候の挨拶と相手の安否を尋ねる言葉、主文は「さて」で切り出す本題、末文は結びの挨拶です。日本郵便の手紙の基礎知識でも、頭語・前文・本文・末文・あとづけという構成が示され、結語は頭語に対応させると説明されています。時候の挨拶は前文の入り口に置き、季節に合う表現を選びます。一年を通して同じ表現を使えば、それは季節の挨拶ではなくなります。
頭語と結語は対で決まっています。日本郵便の一覧では、一般的な手紙の拝啓には敬具・敬白・拝具、改まった手紙の謹啓には謹白・謹言・敬白、急ぎの急啓には草々・早々、返信の拝復には敬具・拝答、そして略式の前略には草々・早々・不一が対応するとされています。前略は「前文を省略します」という宣言なので、前略と書いてから時候の挨拶を続けるのは自己矛盾です。頭語を書いた以上は対応する結語で閉じる必要があり、省略はできません。前略は略式なので、初めての取引先や目上への正式な依頼状には使いません。
日時・場所・金額・部数のように、読み手が拾い出して使う情報は、本文の中に埋め込まずに記書きにします。結語のあとに中央へ「記」と書き、その下に項目を箇条書きで並べ、最後に右寄せで「以上」と書いて閉じます。「記」で開いたら「以上」で閉じるのが対で、片方だけということはありません。文章のまま続けるのなら、そもそも記書きにする意味がないので、記書きを立てたら必ず箇条にします。
社外文書の並び 1. 令和○年○月○日(右寄せ・発信日) 2. 株式会社○○ 営業部 部長 山田一郎様(左寄せ) 3. 株式会社△△ 総務部 田中花子(右寄せ) 4. 新製品説明会開催のご案内(中央・件名) 5. 拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。(頭語と前文) 6. さて、このたび弊社では……(主文) 7. まずは略儀ながら書中をもってご案内申し上げます。 敬具(末文と結語) 8. 記/日時・場所・持ち物を箇条書き/以上(右寄せ)
| 場面 | 頭語 | 主な結語 |
|---|---|---|
| 一般的な手紙 | 拝啓 | 敬具、敬白、拝具 |
| 改まった手紙 | 謹啓 | 謹白、謹言、敬白 |
| 急ぎの手紙 | 急啓 | 草々、早々、敬具 |
| 返信 | 拝復 | 敬具、拝答 |
| 前文を省く略式 | 前略 | 草々、早々、不一 |
- 頭語
- 手紙や社外文書の書き出しに置く語。拝啓・謹啓・前略・拝復など。結語と対になっている。
- 結語
- 本文を閉じる語。敬具・謹白・草々など。頭語ごとに対応する語が決まっている。
- 前文
- 頭語のあとに置く、時候の挨拶と安否の挨拶の部分。前略を使うときはここを省く。
- 主文
- 「さて」などで切り出す本題の部分。文書の目的そのものを書く。
- 記書き
- 結語のあとに「記」と掲げ、日時や場所などを箇条書きにまとめる部分。「以上」で閉じる。
- 件名
- 文書の主題と性格を一行で示す見出し。公用文作成の考え方では標題と呼ぶ。
例題 「謹啓」で書き出した文書を、どの語で閉じるか。
謹白。改まった手紙の頭語である謹啓には、謹白・謹言・敬白などが対応する。草々や不一は略式の結語なので、謹啓の改まった調子とは釣り合わない。
例題 取引先からの照会状に返事を書く。頭語は何にするか。
拝復。返信に用いる頭語で、受け取った手紙への返事だと一目で分かる。結語は敬具や拝答。前略は略式なので、正式な回答には格が合わない。
例題 説明会の日時・会場・持ち物を伝えたい。本文にどう書くか。
結語のあとに「記」と掲げ、日時・会場・持ち物を箇条書きで並べ、最後に「以上」で閉じる。本文の文章に埋め込むと、読み手が数字を拾い出す手間がかかる。
出典:日本郵便「手紙の基礎知識 手紙の基本形式」(2026年8月確認)
社内文書と宛名の敬称・封筒
社内文書は挨拶を削って要点だけを残すのが正解。一方で宛名の敬称は削れません。様・御中・各位・先生の使い分けと、封筒の表書きを固めます。
社内文書、つまり通知・報告・稟議書・議事録などは、同じ組織の中でやり取りする実務の道具です。時候の挨拶も頭語も結語も要りません。件名、結論、理由、詳細の順で並べ、敬語は「です・ます」程度にとどめます。読む人数が多いほど、短いほうが速く正確に伝わります。文化庁の「公用文作成の考え方」も、一文を短くすること、一文の論点は一つにすることを挙げています。結論を最後に回すと、読む人数の分だけ読む時間が積み上がることになります。
敬称は宛先の種類で決まります。個人には「様」、組織や部署には「御中」、複数の人に同じ文書を出すときは「各位」。ここで最も多い誤りが敬称の重ねづけです。「各位」はそれ自体が「皆さま」にあたる敬称なので、「各位様」「各位殿」とは書きません。医師・教員・弁護士など「先生」と呼ぶ相手には「先生」が敬称として働くので、「先生様」ともしません。日本郵便も、団体や部署あてに「○○課御中 郵便太郎様」のように敬称を重ねるのは誤りだとしています。
特に間違えやすいのが、組織名と個人名を並べて書くときです。御中は、具体的な人ではなくその組織や機関の中にいる関係者へあてるという意味の脇付けなので、氏名が明らかならその点と矛盾します。敬語の指針も、「○○中学校 山田一郎先生御中」という書き方を不適切とし、「○○中学校 山田一郎先生」とすればよいと述べています。宛名の敬称は、一つの宛先に一つ。組織あてなら御中、個人あてなら様、と割り切ってください。
封筒の表書きでは、会社名を「(株)」と略さず「株式会社○○」と正式名称で書きます。前株か後株かは会社の正式名称そのものなので、書き手が読みやすいほうに入れ替えてよいものではありません。氏名は中央に大きめに書くとバランスが取りやすくなります。切手は、縦長にしたときに左上になる位置に貼ります。中身や扱いを示す言葉は表面の左下に書き添えるのが一般的で、名あて人本人に開けてほしいときは「親展」、書類の種類を示すときは「請求書在中」のように書きます。裏面には差出人の住所と氏名を、表より小さめの字で書きます。
封筒の表書きの手順 1. 郵便番号は枠内に書く 2. 会社名は「株式会社」と略さず正式名称で書く 3. 部署名・役職名を書き、氏名は中央に大きめに書く 4. 敬称は宛先ごとに一つだけ。個人なら様、組織なら御中 5. 中身や扱いを示す語は表面の左下に書き添える 6. 切手は、縦長にしたときの左上に貼る 7. 裏面に差出人の住所と氏名を、表より小さめの字で書く
| 宛先 | 付ける敬称 | 誤りやすい形 |
|---|---|---|
| 個人 | 様 | 「○○様殿」と敬称を重ねる |
| 組織・部署 | 御中 | 「○○課御中 山田様」と重ねる |
| 複数の相手 | 各位 | 「各位様」「各位殿」と書く |
| 医師・教員など | 先生 | 「山田先生様」と書く |
| 組織の中の特定の個人 | 会社名と部署名のあとに氏名と様 | 「会社名御中 氏名先生」と混ぜる |
- 御中
- 具体的な個人ではなく、その組織や機関の中にいる関係者にあてることを示す脇付け。個人名と並べては使わない。
- 各位
- 複数の相手それぞれに向ける敬称。「皆さま」にあたるので、様や殿を後ろに付けない。
- 親展
- 名あて人本人に開封してほしいことを示す語。封筒の表面に書き添える。
- 在中
- 封筒の中身の種類を示す語。「請求書在中」のように書き、受け取った側の仕分けを助ける。
- 稟議書
- 担当者が起案し、関係者の承認印を順に得て決裁をもらう社内文書。挨拶は書かない。
- 脇付け
- 宛名の脇に書き添える語。御中や親展などがこれにあたる。
例題 株式会社○○の総務部あてに文書を出す。宛名はどう書くか。
「株式会社○○ 総務部 御中」。御中は組織や機関の中にいる関係者にあてる脇付け。様は個人に付ける敬称なので部署には使わない。
例題 その総務部の山田一郎氏あてに出す場合は。
「株式会社○○ 総務部 山田一郎様」。氏名が分かっているので御中は使わない。「総務部御中 山田一郎様」は敬称の重ねづけになる。
例題 部署の全員に同じ文書を配る。宛名は。
「関係者各位」。各位そのものが敬称なので、「各位様」「各位殿」とは書かない。
出典:日本郵便「手紙の豆知識 封筒の表書き・裏書きの書き方」(2026年8月確認)
ビジネスメールの作法
件名、宛先欄、本文の型、返信、添付。メールの事故はほとんどこの五か所で起きます。送る前の一分で防げるものばかりです。
件名は、受信箱の一覧の中で「これを先に開こう」と選んでもらうための名前です。「お世話になっております」「ご連絡」だけでは、開くまで中身が分かりません。「【ご依頼】9月度請求書の再発行について(9月5日まで)」のように、何の用件か、何をしてほしいか、いつまでかが並んでいれば、読み手は開く前に優先順位を決められます。感嘆符を並べて急がせても、緊急度を判断する材料は何も増えません。文化庁の公用文作成の考え方が、標題で主題と文書の性格を示せと言うのと同じ発想です。
宛先欄は三つあります。TOは対応や返事をしてほしい相手、CCは内容を知っておいてほしい相手、BCCは宛先を他の受信者に見せたくないときに使います。TOとCCに入れたアドレスは受信者全員に見えます。ここが事故の起きる場所で、面識のない複数の他社をTOやCCに並べると、取引先の連絡先を第三者へ渡したことになります。一斉送信ならBCCに入れるか、一件ずつ送ります。TOを空にしてもCCが見えるのは同じなので、TOを空欄にすれば解決するわけではありません。
本文は、宛名、挨拶と名乗り、用件、結び、署名の順です。社外あてなら「株式会社○○ 総務部 山田様」と会社名・部署・氏名をそろえます。宛名がないと転送されたときに誰あてか分からず、名乗りがないと相手はアドレスから送り主を推測することになります。「お疲れ様です」は社内の挨拶なので、社外には使いません。原則は1通1用件です。まとめて書くと後半が読み飛ばされ、返事も片方だけになりがちです。分けられない場合は見出しを付けて区切ります。返信では引用を残して何への返事か分かるようにし、件名の「Re:」は原則そのままにします。話題が変わったときは新しい件名で出し直したほうが、あとから探しやすくなります。
添付と誤送信は、注意力ではなく手順で防ぎます。添付すると書いたら、送信前に本当に付いているかを目で見る。容量の大きいファイルは受信側の上限を超えると届かないまま気づかれないので、事前に確認するか別の受け渡し方法を相談する。分割送信は相手に結合の手間を押しつけ、圧縮しても上限を下回る保証はありません。誤送信は、本文を書き終えてから最後に宛先を入力する、送信取り消しの猶予を設定しておく、という順序の工夫が効きます。宛先の候補が出たとき先頭をそのまま選ぶ癖は、同姓の別人へ送る事故の典型的な原因です。依頼はクッション言葉を添えて、してほしいことと期限を具体的に書きます。催促は相手の手違いと決めつけず、「行き違いでしたら申し訳ありません」と逃げ道を作ってから状況の確認をお願いする形にします。
送信ボタンを押す前の点検 1. 宛先は正しいか。同姓や似た表示名の別人を選んでいないか 2. CCに入れるべき上司や関係者が抜けていないか 3. 件名だけで用件と期限が分かるか 4. 宛名の会社名・部署名・氏名の漢字は合っているか 5. 添付すると書いたファイルが実際に付いているか 6. 相手にしてほしいことと期限が本文に書いてあるか 7. 署名に会社名・氏名・連絡先が入っているか
| 欄 | 入れる相手 | 見え方と返信 |
|---|---|---|
| TO | 対応や返事をしてほしい相手 | 全員に見える。返信すべき人 |
| CC | 内容を知っておいてほしい相手 | 全員に見える。原則として返信不要 |
| BCC | 宛先を他の受信者に見せたくない相手 | 他の受信者からは見えない |
| 一斉送信 | 面識のない複数の相手 | TOやCCに並べるとアドレスが漏れる |
- 件名
- メールの見出し。用件・対象・期限が分かる名前にすると、読み手が開く前に優先順位を決められる。
- CC
- 内容を共有しておきたい相手を入れる欄。入れたアドレスは受信者全員に見え、原則として対応は求めない。
- BCC
- 他の受信者からは見えない形で送る欄。面識のない複数の相手への一斉送信に使う。
- 署名
- 本文の末尾に置く、会社名・部署・氏名・連絡先のまとまり。相手が連絡手段を探さずに済む。
- 引用返信
- 相手の文面を残したまま返信すること。何への返事かが相手に分かる。
- 行き違い
- 連絡がすれ違っている状態。催促の前置きに使うと、相手が面目を保ったまま返答できる。
例題 面識のない20社の担当者へ同じ案内を一度に送る。宛先はどうするか。
自社のアドレスをTOに置き、20社はBCCに入れる。TOやCCに並べたアドレスは受信者全員に見えるので、他社の連絡先を第三者へ渡したことになる。
例題 期限を過ぎても返事がない。催促のメールをどう書くか。
「行き違いでしたら申し訳ありません」と前置きしてから、状況の確認をお願いする形にする。事実の列挙で始めると相手を身構えさせ、話が進まなくなる。
例題 用件が二つある。1通にまとめてよいか。
原則は1通1用件。分けられない場合は見出しを付けて区切る。まとめて書くと後半が読み飛ばされ、返事も片方だけになりやすい。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
組織の役割と役職
会社法上の機関と社内の役職は別物
取締役や監査役は会社法が定める機関、社長や専務は会社が自由に付ける社内の呼称です。まず、この二つの層が別物であることを整理します。
会社の「えらい人」を指す言葉には、法律で決まっているものと、会社が自由に決めているものの二種類が混ざっています。会社法が定めるのは株主総会・取締役・取締役会・代表取締役・監査役といった機関で、権限が法律に書かれ、登記もされます。一方で社長・副社長・専務・常務・本部長といった呼び名について、会社法には「社長とは何か」という定義がありません。社内の職制として会社が決めているものなので、同じ「専務」でも会社が違えば権限も待遇も違います。役職の意味を他社に持ち込まないことが、この分野の出発点です。
会社法は、株式会社には一人または二人以上の取締役を置かなければならないと定めています(会社法 第326条第1項)。これに対して取締役会・会計参与・監査役・監査役会・会計監査人などは、定款で定めれば置くことができる任意の機関です(同条第2項)。つまり「取締役会のない株式会社」は違法でも例外でもありません。中小企業では取締役が一人だけという会社も珍しくありません。なお取締役会を置く場合には、取締役は三人以上でなければならないとされています(会社法 第331条第5項)。
会社を代表する権限を持つのが代表取締役です。取締役会設置会社では、取締役会が取締役の中から代表取締役を選定しなければならないとされ(会社法 第362条第3項)、代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を持ちます(会社法 第349条第4項)。多くの会社では代表取締役に「社長」という呼称を重ねて「代表取締役社長」と名乗りますが、これは法律上の地位と社内の呼称を並べて書いているだけで、社長という法律上の役職があるわけではありません。
とはいえ「社長」という名前には社会的な信用があります。会社法は、代表取締役でない取締役に社長・副社長などの名称を付けた場合、その取締役がした行為について善意の第三者に対して会社が責任を負うと定めています(会社法 第354条)。これを表見代表取締役といいます。名刺の肩書きは相手にとって重要な判断材料だ、ということです。また、会社法でいう「役員」は取締役・会計参与・監査役を指し(会社法 第329条第1項)、日常語では役員に含めがちな執行役員は、この条文の役員には当たりません。執行役員は会社法に定めのない呼称で、従業員として置く会社も取締役が兼ねる会社もあります。
取締役会設置会社で「社長」が決まるまでの流れ 1. 株主総会で取締役を選任する(会社法 第329条第1項) 2. 選ばれた取締役全員で取締役会を組織する(会社法 第362条第1項) 3. 取締役会が取締役の中から代表取締役を選定する(会社法 第362条第3項) 4. 会社が社内規程にもとづき、その人に社長の呼称を与える 5. 名刺には「代表取締役社長」と表記する
| 区分 | 例 | 決まり方 |
|---|---|---|
| 会社法上の機関 | 株主総会、取締役、取締役会、代表取締役、監査役 | 会社法と定款で定まり、登記される |
| 会社法上の役員 | 取締役、会計参与、監査役 | 株主総会の決議で選任する(会社法 第329条第1項) |
| 社内の役職名 | 社長、副社長、専務、常務、本部長、部長 | 会社が職制として自由に決める |
| 法律に定めのない呼称 | 執行役員、フェロー、顧問、相談役 | 位置づけも権限も会社ごとに異なる |
| 両方を重ねた表記 | 代表取締役社長、取締役営業本部長 | 法律上の地位と社内の役職を並べたもの |
- 株主総会
- 株主で構成する会社の意思決定機関。取締役などの役員を選任する(会社法 第329条第1項)。取締役会設置会社では、決議できる事項が法律の定めと定款の定めに限られる(会社法 第295条第2項)。
- 取締役
- 会社法が置くことを義務づける機関で、株式会社には一人以上必要(会社法 第326条第1項)。経営の意思決定にあたる立場で、部長などの従業員の役職とは別の地位。
- 取締役会
- すべての取締役で組織する機関。業務執行の決定、取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定と解職を行う(会社法 第362条)。定款で定めた場合に置く任意の機関。
- 代表取締役
- 会社を代表する権限を持つ取締役。取締役会設置会社では取締役会が取締役の中から選定する(会社法 第362条第3項)。
- 監査役
- 取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成する機関(会社法 第381条第1項)。業務を執行する側ではなく、チェックする側に立つ。
- 表見代表取締役
- 代表取締役でない取締役に社長・副社長などの名称を付けた場合、その者の行為について会社が善意の第三者に責任を負うという仕組み(会社法 第354条)。
- 執行役員
- 業務執行を担う立場として会社が置く呼称。会社法に定めがなく、会社法 第329条第1項の役員には含まれない。位置づけは会社ごとに異なる。
- 定款
- 会社の基本ルールを定めた文書。取締役会や監査役を置くかどうかも定款で定める(会社法 第326条第2項)。
例題 「うちの会社には取締役会がないが、違法ではないか」と聞かれました。どう答えますか。
違法ではありません。株式会社に必ず必要なのは取締役一人以上で(会社法 第326条第1項)、取締役会は定款で定めた場合に置く任意の機関です(同条第2項)。取締役会を置かない株式会社は多数あります。
例題 名刺に「専務取締役」とある人は、会社法上どういう立場ですか。
取締役であることが会社法上の地位です。専務は社内の呼称なので、代表権があるかどうかは名刺だけでは分かりません。代表権の有無は登記で確認します。
例題 監査役は何をする人ですか。
取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成します(会社法 第381条第1項)。業務を執行する立場ではなく、執行を点検する立場です。
出典:会社法 第326条・第329条・第331条・第349条・第354条・第362条・第381条
役職の序列と職務権限
会長から主任までの一般的な並びと、役職に伴う決裁の権限を押さえます。序列も権限も会社ごとに異なる、というのが大前提です。
一般には、上から会長・社長・副社長・専務・常務・本部長・部長・次長・課長・係長・主任という並びで語られることが多く、会長から常務あたりまでを役員層、本部長から課長あたりまでを管理職層と呼ぶのが通例です。ただしこれはあくまで慣行であり、この序列を定めた法律はありません。本部長と部長のどちらが上かは会社によって違いますし、主任を管理職として扱う会社もあれば、一般社員の中の呼称にとどめる会社もあります。他社の名刺を見たときは、自社の物差しで序列を判断せず、相手の会社での位置づけを確かめるのが安全です。
役職にはライン職とスタッフ職の区別があります。ライン職は部下を持ち、業務命令を出して組織を動かす立場で、部長・課長・係長がこれにあたります。スタッフ職は部下を持たず、専門性で組織を支える立場で、部長級の処遇でも部下がいない担当部長・専門部長などが置かれることがあります。名刺に「部長」とあっても部下がいるとは限らない、ということです。雇用形態や勤務地とは関係のない区別なので、混同しないようにします。
役職名には「代理」「心得」「補佐」「付」といった言葉が付くことがあります。一般に、課長代理は課長の職務を代わって行う立場、課長補佐は課長を助ける立場、部長付は部長の直属に置かれる立場を指しますが、これも会社によって重みが違います。序列を数えるより、その人が何を決められるのかを見るほうが実務では役に立ちます。
「何を決められるか」を文書にしたものが職務権限規程です。多くの会社では、支出の金額や契約の種類ごとに、どの役職まで決裁できるかを表にしています。たとえば10万円までは課長、100万円までは部長、それを超えると役員、といった具合です。自分の上司がどこまで決められるのかを知っていると、稟議をどこまで上げる必要があるかが分かり、差し戻しが減ります。なお、権限を下位者に委ねる権限委譲を行っても、委ねた側の管理責任がなくなるわけではなく、委ねられた側の報告義務もなくなりません。委譲する範囲は必ず文書で明確にします。
決裁の経路を確かめる手順 1. 社内規程集で職務権限規程を開く 2. 自分の案件がどの区分にあたるかを見る 3. 金額や契約期間で決裁者が変わることを確認する 4. 決裁者までの経路と、合議が必要な部署を確認する 5. 迷ったら起案する前に上司へ決裁者を確認する
| 層 | 役職の例 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 役員層 | 会長、社長、副社長、専務、常務 | 会社全体の経営方針を決める |
| 上級管理職 | 本部長、部長 | 部門の目標と資源配分に責任を持つ |
| 中間管理職 | 次長、課長 | 課の業務運営と部下の育成に責任を持つ |
| 監督職 | 係長、主任 | 現場の作業を取りまとめる |
| 一般社員 | 担当、社員 | 自分の担当業務を遂行する |
- 管理職
- 部門や課の運営に責任を持ち、部下を指揮する立場。一般に部長・課長などを指すが、どこからを管理職とするかは会社によって異なる。
- ライン職
- 部下を持ち、業務命令を出して組織を動かす役職。部長・課長・係長など。
- スタッフ職
- 部下を持たず、専門性で組織を支える役職。担当部長・専門部長など、役職級であっても部下を持たない形がある。
- 職務権限規程
- どの役職がどこまでの事項を決裁できるかを、金額や案件の種類ごとに定めた社内規程。
- 決裁権限
- 案件を最終的に承認できる権限。金額の大きさや契約の種類によって、必要な役職が上がっていくのが通例。
- 権限委譲
- 上位者が持つ決裁の権限を下位者に委ねること。委ねる範囲を文書で明確にする必要があり、委ねた側の管理責任は残る。
例題 取引先の課長と自社の係長では、どちらが上位ですか。
他社との間に上下関係はありません。役職の序列は自社の指揮命令のためのもので、社外には及びません。相手の役職にかかわらず敬意をもって応対します。
例題 「担当部長」という肩書きの人に部下がいないのはなぜですか。
スタッフ職として部長級の処遇を受けている場合があるためです。ライン職とスタッフ職の区別によるもので、珍しいことではありません。
例題 80万円の発注をしたいとき、誰の決裁が必要ですか。
会社の職務権限規程で確認します。金額だけでなく契約の種類によっても決裁者が変わるため、規程を見てから起案します。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
部署の役割と稟議・決裁の流れ
総務・人事・経理などの主な部署が何をしているかと、社内で物事が決まっていく稟議のしくみを押さえます。
会社の部署は大きく、売上をつくる部門と、それを支える部門に分かれます。営業や製造が前者、総務・人事・経理などが後者で、支える側をまとめて管理部門やコーポレート部門と呼びます。新入社員がまず覚えたいのは「困ったときにどこへ行けばよいか」です。備品が壊れたら総務、勤怠や異動の相談は人事、経費の精算は経理、契約書の確認は法務、パソコンの不具合は情報システムというように、宛先が分かるだけで仕事の速度が変わります。
名前が似ていて混同しやすいのが経理と財務です。経理は日々の取引を記録して決算書をつくる仕事、財務は資金を調達し運用する仕事で、銀行との交渉や資金繰りは財務が担います。総務と人事も分かれていることが多く、総務は社屋・備品・文書管理・株主総会の事務など会社全体の庶務、人事は採用・配置・評価・教育など人に関する仕事です。ただし規模の小さい会社では総務が人事や経理を兼ねることもあり、分け方は会社によって異なります。
社内で何かを決めるとき、関係者を回って承認を集める文書が稟議書です。起案者が目的・内容・金額・効果を書き、関係部署の合議を経て、決裁権者が承認します。承認することを決裁、あらかじめ権限を委ねられた者が自らの責任で決めることを専決、決裁権者が不在のときに代わって決めることを代決といいます。代決した案件は、後から本人に見てもらう後閲を行うのが通例です。他人の印鑑を借りて押す、決裁前に発注してしまうといった近道は、いずれも規程違反になります。
稟議は時間がかかるので、いきなり書類を回すのではなく、あらかじめ関係部署に趣旨を説明しておく根回しが効きます。根回しは合議を飛ばすための手段ではなく、書面が回る前に論点をそろえて手戻りを減らすための正当な準備です。差し戻しの多くは「金額の根拠がない」「他案と比較した検討結果がない」「いつまでに何が必要か分からない」の三つが原因です。起案の前に決裁者と合議先を確認し、見積書や比較表などの添付資料をそろえてから回すと、一度で通ります。
稟議が通るまでの流れ 1. 起案者が目的・内容・金額・効果を書いて稟議書をつくる 2. 見積書や比較表など、根拠になる資料を添付する 3. 直属の上司に内容を説明し、了解を得る 4. 関係部署に合議を回す(法務、経理、情報システムなど) 5. 決裁権者が決裁する 6. 決裁を受けてから発注や契約などの実行に移る
| 部署 | 主な仕事 | こんなときに相談する |
|---|---|---|
| 総務 | 社屋・備品・文書管理・株主総会の事務 | 備品が壊れた、会議室を押さえたい |
| 人事 | 採用・配置・評価・教育・勤怠の管理 | 異動や休職、勤怠の入力を相談したい |
| 経理 | 仕訳・請求・支払・決算書の作成 | 経費を精算したい、請求書を出したい |
| 財務 | 資金調達・資金繰り・銀行対応 | 大きな投資の資金手当てを相談したい |
| 法務 | 契約書の審査・法令対応・紛争対応 | 取引先の契約書を確認してほしい |
| 営業 | 顧客への提案・受注・売上への責任 | 顧客の要望を製品に反映したい |
| 企画 | 経営計画・新規事業・商品企画 | 中期の計画に沿う案かを確かめたい |
| 情報システム | 社内システム・ネットワーク・端末の管理 | パソコンが起動しない、権限がほしい |
| 購買 | 仕入先の選定・発注・価格交渉 | 部材を安定して仕入れたい |
| 品質保証 | 品質基準の管理・検査・不具合対応 | 不具合の原因を調べたい |
- 管理部門
- 総務・人事・経理・法務など、事業部門を支える部門の総称。コーポレート部門ともいう。
- 稟議書
- 会議を開かずに、関係者を回って承認を得るための社内文書。目的・内容・金額・効果と根拠資料を添えて起案する。
- 決裁
- 決裁権者が案件を最終的に承認すること。決裁を受けてから発注や契約などの実行に移る。
- 専決
- あらかじめ権限を委ねられた者が、自らの責任で決めること。職務権限規程で範囲が定められる。
- 代決
- 決裁権者が不在のときに、代わって決めること。後から本人に確認してもらう後閲を行うのが通例。
- 合議
- 決裁の前に、関係する部署の意見や確認を得る手続き。契約なら法務、支出なら経理といったように案件ごとに合議先が決まっている。
- 根回し
- 書面を回す前に関係者へ趣旨を説明し、論点や懸念を先に把握しておくこと。手戻りを減らすための準備。
例題 課長が出張中で稟議が止まっています。どうしますか。
規程で代決が認められているかを確認します。認められていれば代理の決裁者に回し、戻られた後に後閲していただきます。印鑑を借りて自分で押す、承認を飛ばして先に発注する、といった対応はいけません。
例題 「経理に資金調達を頼んで」と言われました。適切ですか。
多くの会社では資金調達は財務の仕事です。経理は記録と決算が中心なので、自社の分担を確認したうえで正しい部署に依頼します。
例題 稟議が差し戻されました。まず何を見直しますか。
金額の根拠、他案との比較、必要な時期の三点です。添付資料が足りているかを確かめ、決裁者が判断できる材料をそろえて再提出します。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
仕事の進め方
報連相と指示の受け方
報告・連絡・相談は似ているようで宛先も目的も違います。指示を正確に受け取り、正確に返すところから仕事は始まります。
報連相は、報告・連絡・相談の頭をつないだ言葉です。報告は指示を出した人に対して結果や経過を返すこと、連絡は関係する人に事実を知らせること、相談は判断に迷ったときに意見や助言を求めることをいいます。要点は宛先が違うことで、報告は上へ、連絡は横や周囲へ、相談は上司や先輩へ向かいます。「言ったつもり」でいちばん多い失敗は、上司には報告したが関係部署に連絡していなかった、という取りこぼしです。
報告は結論から述べます。「A社の件ですが、納期を1週間延ばしてほしいと言われました。理由は先方の部材の遅れです。当方への影響は…」という順です。経過から話し始めると、聞き手は結論を待ちながら情報を抱えることになり、判断が遅れます。そして、悪い知らせほど早く伝えるのが鉄則です。時間がたつほど選べる手が減るので、解決していなくても「まだ解決していませんが」と前置きして事実を出します。上司がいちばん困るのは、締切当日に初めて問題を知らされることです。
指示を受けるときは、呼ばれたらまずメモと筆記具を持って行きます。話は最後まで聞き、途中で口をはさまないのが基本ですが、聞き終えたら5W2H、つまり、いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように・いくら、の抜けを確かめます。とくに期限と、どこまでやるのかという成果物の形は必ず確認します。「なるべく早めに」と言われたら、こちらから「本日中でよろしいでしょうか」と具体的な日時を示して合意します。最後に要点を復唱し、席に戻ったらメモを整理して着手の予定を決めるところまでが一連の作業です。
在宅勤務では、席が近ければ自然に伝わっていたことが伝わりません。作業を始めるとき、区切りがついたとき、終わるときに短く共有する。チャットは相手が読む時間を選べる利点がある反面、急ぎの用件には向かないので電話や会議に切り替える。判断を仰ぐ相談は文字だけで長く往復せず、短い通話にする。この三つの切り替えができると、離れていても仕事は回ります。一方で通話は記録が残らないので、決まったことは必ず文字にして共有します。録画があっても、探すのに時間がかかるため要点の文字化は省けません。
指示の受け方 6手順 1. 呼ばれたらメモと筆記具を持って行く 2. 話は最後まで聞き、途中で口をはさまない 3. 5W2H の抜けを確かめる(とくに期限と成果物の形) 4. なぜその仕事が必要かという背景も聞く 5. 要点を復唱して認識をそろえる 6. 席に戻ったらメモを整理し、着手の予定を決める
| 区分 | 誰に | 目的 | 例 |
|---|---|---|---|
| 報告 | 指示を出した人(上司) | 結果や経過を返して判断してもらう | 作業が終わりました、期日に間に合いません |
| 連絡 | 関係する人(同僚・他部署・取引先) | 事実を知らせて動きをそろえる | 会議の時間が変わりました、明日休みます |
| 相談 | 上司・先輩 | 判断や助言を求める | 二案で迷っています、どちらがよいでしょうか |
- 報告
- 指示を出した人に対して、結果や経過を返すこと。結論を先に述べ、事実と自分の意見を分けて伝える。
- 連絡
- 関係する人に事実を知らせること。判断を求めるものではなく、影響を受ける人全員に届けるのが要点。
- 相談
- 判断に迷ったときに、上司や先輩に意見や助言を求めること。状況と選択肢を用意して持ち込むと短時間で決まる。
- 5W2H
- いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように・いくら、の七つの確認項目。指示を受けたときの抜けの点検に使う。
- 中間報告
- 仕事が終わる前に、途中の進み具合を報告すること。長い仕事では節目を決めて入れると、方向のずれを早く直せる。
- 復唱
- 受けた指示の要点を声に出して繰り返し、認識が一致しているかを確かめること。
例題 上司から「なるべく早めにお願い」と言われました。どうしますか。
「早め」の感覚は人によって違います。「本日中でよろしいでしょうか」「明日の午前中までにお出しします」と具体的な日時を示して確認し、合意してから着手します。
例題 作業の途中でトラブルが起きました。まだ解決していません。報告すべきですか。
報告します。悪い知らせほど早く伝えるのが原則で、解決してから報告すると打てる手が減ります。事実と現在の状況、考えられる対応案を添えます。
例題 在宅勤務で上司に相談したいことがあります。長いチャットを送るべきですか。
判断を仰ぐ相談は、短い通話に切り替えるほうが早く正確です。通話のあと、決まったことをチャットに文字で残しておきます。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
優先順位とスケジュール管理
複数の仕事を同時に抱えたときの並べ方、進捗の伝え方、そして労働時間と休暇についての法律上の基本を押さえます。
仕事が重なったら、緊急度と重要度の二つの軸で並べます。緊急かつ重要なものが最優先ですが、成果を左右するのは、重要だが緊急でないもの、つまり計画づくり・改善・学習・関係づくりです。ここは先に時間を確保しないと常に後回しになります。緊急だが重要でないもの、たとえばすぐ返せる問合せは、つい先に手をつけてしまいますが、これに埋もれると重要な仕事が毎回締切直前になります。緊急でも重要でもないものは、やめてよいかも含めて上司に相談します。迷うときは、期限だけでなく「遅れたときに誰がどれだけ困るか」で測ると決めやすくなります。
PDCA は Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の四段階を回す考え方です。大切なのは Check を必ず入れることで、やりっぱなしにすると同じ失敗を繰り返します。評価するためには、計画の段階で「何がどうなったら成功か」を数字や状態で決めておく必要があります。目標があいまいなまま実行に移すと、あとから評価のしようがありません。
スケジュールは締切から逆算して組みます。作業時間をすき間なく並べると、割り込みや手戻りで必ず遅れるので、全体の二割程度は余裕として空けておきます。他者の確認や決裁を待つ時間も工程に含めるのを忘れないでください。長い仕事には自分で中間の締切を置き、そこで中間報告をします。遅れそうだと分かった時点で、結論を先に言い、どこまで進んでいて、原因は何で、何が必要で、いつなら出せるかを伝えます。細かすぎる報告は相手の時間を奪うので、節目を決めて出すのがよいでしょう。
労働時間には法律の上限があります。労働基準法は、休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています(労働基準法 第32条)。これを超えて働いてもらうには、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定を結び、行政官庁に届け出る必要があります(労働基準法 第36条)。この協定が一般に36協定と呼ばれるものです。残業は自分の判断で始めるのではなく、会社の定める手続で申請します。休憩についても、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間を、労働時間の途中に与えなければならないと定められています(労働基準法 第34条第1項)。
年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続しまたは分割した10労働日を与えなければならないとされています(労働基準法 第39条第1項)。以後は継続勤務年数に応じて日数が加算されます。取得にあたって理由を説明する義務はありません。ただし、請求された時季に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は他の時季に与えることができます(同条第5項)。実務としては、休む日が決まったら早めに申請し、進行中の案件の状況、不在中の連絡先、対応の方針を関係者に伝えておくのが作法です。
遅れそうなときの報告 5手順 1. 遅れそうだと分かった時点ですぐ声をかける 2. 結論を先に言う(当初の期限に間に合いません) 3. 現在どこまで終わっているかを示す 4. 遅れの原因と、必要な支援を具体的に伝える 5. いつなら出せるかを自分から提案する
| 区分 | 例 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 緊急で重要 | 今日が締切の見積、クレームへの対応 | 最優先で今すぐ着手する |
| 緊急でないが重要 | 計画づくり、改善、学習、関係づくり | 先に時間を確保して計画的に進める |
| 緊急だが重要でない | 短い問合せ、形式だけの会議 | 短時間で片づけるか、任せられないかを考える |
| 緊急でも重要でもない | 目的のはっきりしない資料づくり | やめてよいかを上司に相談する |
- 緊急度
- いつまでにやらなければならないかの度合い。締切の近さで測る。
- 重要度
- その仕事が成果にどれだけ効くかの度合い。遅れたときに誰がどれだけ困るかで測ると判断しやすい。
- PDCA
- Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の四段階を繰り返す進め方。評価を飛ばすと同じ失敗を繰り返す。
- 逆算
- 締切から順に工程をさかのぼって計画を組むこと。割り込みや他者の確認待ちに備えて余裕を見込む。
- 36協定
- 法定の労働時間を超えて労働させるために必要な労使協定の通称。書面による協定を結び、行政官庁に届け出る必要がある(労働基準法 第36条)。
- 年次有給休暇
- 6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日が与えられる休暇(労働基準法 第39条第1項)。取得に理由の説明は要らない。
- 時季変更権
- 請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に、会社が他の時季に与えることができる仕組み(労働基準法 第39条第5項)。
例題 三件の仕事が重なりました。どれから手をつけますか。
緊急度と重要度で並べます。締切が近く影響の大きいものが先ですが、迷うときは三件を上司に示して優先順位を確認します。一人で抱えて全部遅らせるのがいちばん困ります。
例題 定時を過ぎても作業が終わりません。そのまま残ってよいですか。
会社の手続に従って申請します。労働時間の上限は法律で定められており(労働基準法 第32条)、法定労働時間を超える労働には労使協定と行政官庁への届出が前提となります(労働基準法 第36条)。
例題 有給休暇の申請書に理由を書く欄があります。必ず書かなければなりませんか。
年次有給休暇の取得に理由の説明義務はありません。ただし業務が滞らないよう、早めに申請し、引き継ぎと不在中の連絡先を伝えておきます。
出典:労働基準法 第32条・第34条・第36条・第39条/※ そのほかは公的な定めのない商慣行です
ミスの初動と依頼・会議・引き継ぎ
うまくいかないときほど型が要ります。ミスをしたときの初動、人への依頼と断り方、会議の作法、引き継ぎをまとめます。
ミスに気づいたときの初動は、隠さないこと、そしてすぐ上司に伝えることに尽きます。順番は、まず被害の拡大を止める、次に事実を伝える、影響範囲を示す、応急の対応案を出して指示を仰ぐ、最後に原因と再発防止をまとめる、です。原因の分析は落ち着いてからでよく、先に必要なのは被害を止めることです。自分だけで取り返そうとして時間を使うと、その間に影響が広がります。言い訳から入らず「申し訳ありません、こういうことが起きました」と事実を先に出し、推測と事実は分けて説明します。メールの誤送信のように情報の流出につながるおそれがある場合は、自分の判断で相手に連絡する前に、会社としての対応を確認します。
人に仕事を依頼するときは、背景・成果物・期限・分量の四つを伝えます。「これお願い」だけでは、受けた側は何をつくればよいか分からず、やり直しになります。依頼は相手の仕事を増やす行為なので、相手の状況を確かめ、急ぐ場合は理由を短く添えます。自分が忙しい事情を長く述べても、相手の作業内容は決まりません。逆に依頼を断るときは、いきなり「できません」ではなく、恐れ入りますがといったクッション言葉を置き、受けられない理由と、代わりにできること、たとえば別の期限、一部だけ、別の担当者、を示します。安請け合いして期限に落とすほうが、最初に断るよりずっと迷惑がかかります。
会議は、開く前に目的とアジェンダを配ることで質が決まります。アジェンダには議題、各議題の所要時間、その会議で決めたいことを書き、資料は事前に送ります。会議中は発言だけでなく決定に至った理由も記録し、終わりに決定事項と宿題を読み上げて確認します。議事録に必ず要るのは、日時と場所、出席者、議題、決定事項、宿題、次回予定です。宿題は、誰が・いつまでに・何をするかの三点がそろって初めて機能します。結論が出なかった議題も、未決であることと、誰がいつまでに詰めるかを残しておかないと、次の会議で同じ議論を繰り返すことになります。議事録は早いほど価値が高いので、当日中の共有を目安にします。
引き継ぎは、後任が自分に聞かなくても仕事が回る状態をつくる作業です。担当業務の一覧、進行中の案件とその状況、関係者と連絡先、過去の経緯や注意点、書類やデータの置き場所を引継書にまとめます。口頭だけの引き継ぎは必ず抜けが出ます。とくに「文書に残っていない約束」と「トラブルになりかけた経緯」は、後任がいちばん困る部分なので、必ず書いて残します。
ミスに気づいたときの初動 6手順 1. まず被害が広がるのを止める(送信・出荷・公開を止める) 2. 隠さず、すぐ上司に伝える 3. 事実を時系列で説明する(推測と事実を分ける) 4. 影響範囲を示す(誰に、どこまで及ぶか) 5. 応急の対応案を示して指示を仰ぐ 6. 落ち着いてから原因を調べ、再発防止をまとめる
| 項目 | 書く内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日時と場所 | 開催日時と、会議室かオンラインかの別 | 後から探せるよう表記をそろえる |
| 出席者 | 出席した人と欠席した人 | 欠席者にも共有する前提で書く |
| 議題 | 話し合った項目 | アジェンダの順に並べる |
| 決定事項 | 決まったことと、決まらなかったこと | 未決の事項も必ず書き残す |
| 宿題 | 誰が、いつまでに、何をするか | 三点がそろっていないものは宿題にならない |
| 次回予定 | 次の会議の日時と議題 | その場で決めておくと調整が早い |
- 初動
- 問題が起きた直後にとる最初の行動。被害の拡大を止めることと、上司へ早く伝えることが柱になる。
- 再発防止
- 同じ問題が二度起きないように、仕組みや手順を直すこと。原因の分析は応急の対応が済んでから行う。
- クッション言葉
- 「恐れ入りますが」「あいにくですが」のように、依頼や断りの前に置いて印象をやわらげる言い回し。
- アジェンダ
- 会議の議題、各議題の所要時間、決めたいことを書いた事前配布の資料。参加者が準備して臨めるようにするためのもの。
- 議事録
- 会議の記録。日時と場所、出席者、議題、決定事項、宿題、次回予定を書く。未決の事項も残す。
- 引継書
- 担当交代のときに、業務一覧・進行中の案件・関係者・注意点・資料の置き場所をまとめた文書。
例題 取引先へのメールを、宛先を間違えて別の会社に送ってしまいました。まず何をしますか。
すぐ上司に報告します。誤送信は情報の流出につながるおそれがあり、会社として対応を決める必要があります。自分の判断で誤送信先に連絡する前に、事実、送った内容、宛先を正確に伝えます。
例題 先輩から急ぎの依頼を受けましたが、今日は自分の締切があって受けられません。
「恐れ入りますが、本日は別件の締切があり手が空きません。明日の午前でよろしければお引き受けします」のように、理由と代案を添えて伝えます。黙って抱え込み、両方を遅らせるのが最も困ります。
例題 議事録に、決まらなかったことは書かなくてよいですか。
書きます。何が未決かを残しておかないと、次の会議で同じ議論を繰り返します。誰がいつまでに詰めるかまで書いておくと確実です。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
ビジネス知識の基礎
会計の初歩(利益の段階・決算書・固定費と変動費)
売上から利益が生まれるまでの段階と、損益計算書や貸借対照表が何を写した書類なのかを、実際の数字の読み方から押さえます。
会社の数字は、もうけを一段ずつ削りながら見ていきます。まず売上高から売上原価を引いた額が売上総利益で、現場では粗利と呼ばれます(会社計算規則 第89条)。粗利は、その商品やサービスそのものにどれだけ力があるかを示します。次に販売費及び一般管理費、つまり人件費・家賃・広告費など売るために必要な費用を引くと営業利益になり(同 第90条)、これが本業でどれだけ稼げたかを表します。さらに営業利益に営業外収益を足し、借入金の利息のような営業外費用を引くと経常利益です(同 第91条)。「粗利は出ているのに営業利益が薄い」なら、売り方や間接費のかけ方に原因がある、という読み方ができます。
決算書のうち損益計算書は、1年などの一定期間にいくら稼いでいくら使ったかという流れを示します。貸借対照表は、決算日というある一時点で何を持ち、誰にいくら返す義務があるかという残高を示します。貸借対照表は資産・負債・純資産の3つの部に区分して表示することになっており(会社計算規則 第73条)、資産の合計は負債と純資産の合計に必ず一致します。損益計算書は売上高・売上原価・販売費及び一般管理費・営業外収益・営業外費用・特別利益・特別損失に区分されます(同 第88条)。流れを見る書類と残高を見る書類、という違いを最初に頭に入れておくと迷いません。
費用は固定費と変動費に分けると見通しがよくなります。固定費は売上が増えても減ってもほぼ一定額かかる費用で、事務所の家賃や正社員の給与が代表です。変動費は売上にあわせて増減する費用で、材料費や仕入、売上連動の販売手数料が当たります。売価から1個あたりの変動費を引いた額を限界利益といい、固定費を限界利益で割ると、損も得もしない販売数量である損益分岐点が求められます。どちらに区分するかは業種や契約の形で変わるので、自社の実態に合わせて判断してください。
長く使う設備は、買った年に全額を費用にせず、使う年数に配分して費用にします。これが減価償却です(法人税法 第31条)。定額法なら、取得価額を耐用年数で割った額が毎年の償却費のイメージになります。消費税は、事業者が売上とともに受け取った税額から、仕入や経費で支払った税額を差し引いて納める仕組みです(消費税法 第30条)。標準税率は合計10パーセント、軽減税率は合計8パーセントです(同 第29条)。手元に残っている消費税分は最終的に納めるお金なので、資金繰りのうえでは自分のもうけと混ぜないように意識しておくと安全です。具体的な計算や申告は税務署や税理士に確認してください。
損益分岐点の販売数量を求める(例) 売価 900円、1個あたり変動費 400円、固定費 月300万円 1個あたり限界利益: 900 − 400 = 500円 損益分岐点数量: 3,000,000 ÷ 500 = 6,000個 検算(売上): 900 × 6,000 = 5,400,000円 検算(費用): 400 × 6,000 + 3,000,000 = 5,400,000円 で一致
| 利益の段階 | 計算のしかた | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 売上総利益(粗利) | 売上高 − 売上原価 | 商品やサービスそのものの利幅 |
| 営業利益 | 売上総利益 − 販売費及び一般管理費 | 本業でのもうけ |
| 経常利益 | 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用 | 利息など本業以外も含めた実力 |
| 税引前当期純利益 | 経常利益 + 特別利益 − 特別損失 | 臨時の損益まで含めた利益 |
| 当期純利益 | 税引前当期純利益 − 法人税等 | 最終的に会社に残る利益 |
- 売上総利益(粗利)
- 売上高から売上原価を引いた額。商品やサービスそのものの利幅を示す(会社計算規則 第89条)。
- 営業利益
- 売上総利益から販売費及び一般管理費を引いた額。本業でどれだけ稼げたかを示す(会社計算規則 第90条)。
- 経常利益
- 営業利益に営業外収益を足し営業外費用を引いた額。利息など本業以外の常の損益まで含めた実力(会社計算規則 第91条)。
- 貸借対照表
- ある一時点の財政状態を示す書類。資産・負債・純資産の3つの部に区分される(会社計算規則 第73条)。
- 固定費と変動費
- 売上に関わらず一定額かかるのが固定費、売上にあわせて増減するのが変動費。損益分岐点の計算に使う。
- 減価償却
- 長く使う資産の取得価額を、使用する年数に配分して費用にする考え方(法人税法 第31条)。
例題 売上高 1,000万円、売上原価 600万円、販売費及び一般管理費 250万円のとき、営業利益はいくらか。
まず売上総利益が 1,000 − 600 で 400万円。そこから 250万円を引いて営業利益は 150万円。粗利の段階と営業利益の段階を分けて見るのがこつ。
例題 取得価額 120万円の機械を耐用年数5年、定額法(残存価額は考えない)で償却すると1年あたりいくらか。
1,200,000 ÷ 5 で 240,000円。買った年に120万円全額を費用にするのではなく、5年に分けて費用にするのが減価償却の考え方(法人税法 第31条)。
例題 税抜 20,000円の商品を標準税率で販売したときの税込価格はいくらか。
20,000 × 1.1 で 22,000円。差額の 2,000円は最終的に納める分であって会社のもうけではない。納付額は受け取った税額から支払った税額を差し引いて計算する(消費税法 第30条)。
出典:会社計算規則 第89条・第90条・第91条
契約の初歩(見積から検収・請求まで、印紙とNDA)
取引を動かす書類の並び順と、それぞれが何を証明しているのかを押さえ、印紙・秘密保持・下請取引のルールまで一続きで理解します。
取引の書類には順番があり、それぞれが役割を持っています。見積書はこの条件・この金額でできるという提示、発注書や注文書は買う側の申込み、請書や注文請書は受ける側の承諾、納品書は渡した記録、検収は受け取った側が中身を確かめて合格と認める区切り、そして請求書と支払です。契約そのものは、内容を示した申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立し、法令に特別の定めがある場合を除いて書面などの方式は要りません(民法 第522条)。それでも書面を交わすのは、後から言った言わないにならないよう、合意の中身を残しておくためです。
検収は支払の起点になることが多い、実務上とても大事な区切りです。数量・仕様・品質を確かめ、問題があればこの段階で伝えます。引き渡された目的物が種類・品質・数量について契約の内容に適合しないときは、買主は修補や代替物の引渡しなどの追完を請求できます(民法 第562条)。なお請負は、当事者の一方が仕事を完成することを約し、相手方がその結果に対して報酬を支払うことを約する契約です(民法 第632条)。何をもって完成とするかを最初にすり合わせておくと、検収でもめません。
印紙税は、印紙税法の別表第一に掲げられた文書、つまり課税文書を作成した人に納税義務があります(印紙税法 第3条)。よく出会うのは領収書で、金銭または有価証券の受取書は記載された受取金額が5万円未満なら非課税とされています(同法 別表第一 第17号文書)。印紙は貼るだけでは足りず、文書と印紙の彩紋にかけて判明に消さなければなりません(同法 第8条第2項)。電子データだけでやり取りする場合の取扱いは判断が分かれる場面もあるので、税務署や税理士に確認してください。
秘密保持契約、いわゆるNDAは、打ち合わせや共同作業で知った情報を目的外に使わず第三者に開示しないと約束するものです。話す前に結んでおくのが基本になります。あわせて社内の管理も欠かせません。不正競争防止法にいう営業秘密は、秘密として管理されていること、事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること、公然と知られていないことの3つを満たすものです(同法 第2条第6項)。管理していない情報は保護されにくいということです。下請取引のルールは、下請代金支払遅延等防止法が改正されて2026年1月1日に施行され、略称は中小受託取引適正化法、通称は取適法となりました。手形払いが禁止され、従来の資本金基準に従業員数の基準が加わり、製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託も対象に加わるなど、範囲が広がっています。
1. 仕様と納期をすり合わせ、見積書をもらう 2. 社内の決裁を通してから発注書を出す 3. 請書を受け取り、契約が成立したことを書面で残す 4. 納品を受けたら納品書と現物を突き合わせる 5. 検収し、不適合があればこの段階で連絡する 6. 検収完了を受けて請求書を受け取り、期日に支払う
| 段階 | 出す人 | 何を意味するか |
|---|---|---|
| 見積書 | 受注側 | この条件・この金額でできるという提示 |
| 発注書・注文書 | 発注側 | 買いたいという申込みの意思表示 |
| 請書・注文請書 | 受注側 | 申込みを受けるという承諾の意思表示 |
| 納品書 | 受注側 | 約束した物や成果物を渡したという記録 |
| 検収書 | 発注側 | 中身を確かめて合格と認めたという記録 |
| 請求書 | 受注側 | 代金を支払ってほしいという求め |
- 見積書
- この条件・この金額でできるという提示。発注の前に金額と仕様を合わせるための書類。
- 注文請書
- 発注書という申込みに対して、受ける側が承諾したことを示す書類。契約成立の証拠になる。
- 検収
- 納品されたものが注文どおりかを確かめ、合格と認めること。支払の起点になることが多い。
- 課税文書
- 印紙税法 別表第一に掲げられた文書。作成した人に印紙税の納税義務がある(同法 第3条)。
- NDA(秘密保持契約)
- 知り得た情報を目的外に使わず第三者に開示しないと約束する契約。打ち合わせの前に結ぶのが基本。
- 中小受託取引適正化法
- 下請代金支払遅延等防止法の改正により2026年1月1日に施行された法律の略称。通称は取適法。
例題 発注書は送ったが請書をもらっていない。何が困るか。
契約は承諾があれば成立するが(民法 第522条)、承諾した証拠が残らない。数量や納期でもめたときに合意内容を示せないので、請書やメールでの明示的な承諾を必ず残す。
例題 48,000円の領収書に収入印紙は必要か。
受取書は記載された受取金額が5万円未満なら非課税なので不要(印紙税法 別表第一 第17号文書)。境目に近い金額のときは、税抜か税込かの表示にも注意する。
例題 打ち合わせの前にNDAを結ぶのはなぜか。
話した後では守秘の約束が間に合わない。あわせて社内で秘密として管理していないと、不正競争防止法の営業秘密(同法 第2条第6項)としても守られにくい。
出典:民法 第522条、印紙税法 第3条、不正競争防止法 第2条第6項
労務の初歩(労働時間・年次有給休暇・割増賃金と給与明細)
働く時間と休みのルール、残業代の割増率、社会保険と労働保険の違い、給与明細の読み方までを、条文の裏づけとともに確認します。
労働時間の原則は、休憩時間を除いて1日8時間、1週40時間です(労働基準法 第32条)。これを超えて働かせるには、労働者の過半数で組織する労働組合または過半数を代表する者との書面による協定、いわゆる36協定を結んで行政官庁に届け出る必要があります(同法 第36条第1項)。延長できる時間の限度は原則として1か月45時間、1年360時間です(同条第4項)。休憩は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上を、労働時間の途中に与えます(同法 第34条)。休日は毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上です(同法 第35条)。
年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日が与えられます(労働基準法 第39条第1項)。その後は勤続年数に応じて加算されます。原則は労働者が請求する時季に与えるもので、会社は事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季に変更できるにとどまります(同条第5項)。取得の理由を説明する義務は条文にありません。あわせて、年10日以上付与される労働者については、基準日から1年以内に5日について会社が時季を定めて取得させなければなりません(同条第7項)。
割増賃金の最低の率は法令で決まっています。時間外労働は2割5分以上、法定休日の労働は3割5分以上です(労働基準法 第37条第1項、平成6年政令第5号)。1か月について60時間を超える時間外労働の部分は5割以上になります(同項ただし書)。深夜、原則として午後10時から午前5時までの労働には2割5分以上の割増が必要で(同条第4項)、時間外が深夜にかかればそれぞれを足し合わせます。なお家族手当や通勤手当は割増賃金の基礎となる賃金に算入しません(同条第5項)。
保険は2つの系統に分けて覚えると混乱しません。健康保険と厚生年金保険はいわゆる社会保険で、保険料は労働者と事業主が半分ずつ負担します(健康保険法 第161条、厚生年金保険法 第82条)。労災保険と雇用保険はまとめて労働保険と呼ばれ、労災保険の保険料に労働者の負担分はなく、雇用保険は労働者も一部を負担します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第31条)。給与明細は勤怠・支給・控除の3つの区画でできていて、総支給額から控除の合計を引いた差引支給額が手取りです。賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うのが原則です(労働基準法 第24条)。
残業代の計算(1時間あたりの賃金が 2,000円の場合) 時間外の割増率: 1 + 0.25 = 1.25 1時間あたり: 2,000 × 1.25 = 2,500円 時間外2時間分: 2,500 × 2 = 5,000円 その2時間が深夜にもかかる場合: 1 + 0.25 + 0.25 = 1.5 1時間あたり: 2,000 × 1.5 = 3,000円
| どんな労働か | 割増率の最低限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法定労働時間を超える時間外労働 | 2割5分以上 | 労働基準法 第37条第1項、平成6年政令第5号 |
| 1か月60時間を超える時間外労働 | 5割以上 | 労働基準法 第37条第1項ただし書 |
| 法定休日の労働 | 3割5分以上 | 労働基準法 第37条第1項、平成6年政令第5号 |
| 深夜労働(午後10時から午前5時) | 2割5分以上 | 労働基準法 第37条第4項 |
- 法定労働時間
- 休憩時間を除き1日8時間、1週40時間という労働時間の原則(労働基準法 第32条)。
- 36協定
- 時間外労働や休日労働をさせるために結び届け出る労使協定(労働基準法 第36条第1項)。限度は原則1か月45時間・1年360時間。
- 年次有給休暇
- 6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日が与えられる有給の休暇(労働基準法 第39条第1項)。
- 割増賃金
- 時間外は2割5分以上、法定休日は3割5分以上、深夜は2割5分以上という上乗せの賃金(労働基準法 第37条)。
- 総支給額と手取り
- 基本給や手当を合計したものが総支給額、そこから控除の合計を引いた差引支給額が手取り。
- 労働保険
- 労災保険と雇用保険の総称。労災保険の保険料に労働者の負担分はない(労働保険徴収法 第31条)。
例題 8時間ちょうど働く日の休憩は最低何分必要か。
労働基準法 第34条は、6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上と定めている。8時間ちょうどは8時間を超えていないので45分以上でよい。ただし少しでも残業すると1時間以上が必要になるため、初めから1時間としている会社が多い。
例題 入社して6か月。年次有給休暇は何日もらえるか。
全労働日の8割以上出勤していれば10労働日(労働基準法 第39条第1項)。8割に満たない場合は付与されない。年5日は会社が時季を定めて取得させる義務の日数(同条第7項)で、付与日数とは別の話。
例題 総支給額 300,000円、控除合計 45,000円のときの手取りはいくらか。
300,000 − 45,000 で 255,000円。控除には健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・所得税・住民税などが並ぶ。個別の金額は会社の担当部署に確認する。
出典:労働基準法 第32条・第34条・第35条・第37条・第39条
コンプライアンス(ハラスメント・個人情報・情報管理)
会社と自分の両方を守るために、ハラスメントの型、個人情報の扱い、SNSと情報漏えい、インサイダー取引、著作権の最低線を押さえます。
職場のパワーハラスメントは、優越的な関係を背景とした言動であること、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、労働者の就業環境が害されること、という3つで整理されます。事業主には相談体制の整備など雇用管理上必要な措置を講ずる義務があります(労働施策総合推進法 第30条の2第1項)。厚生労働大臣の指針は代表的な6類型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害を挙げています。加害の意図は要素に入っていないので悪気がなくても該当しうる一方、業務上必要かつ相当な範囲の指導まで否定するものではない、という両面を押さえてください。
セクシュアルハラスメントは、性的な言動への労働者の対応によって労働条件について不利益を受ける型と、性的な言動により就業環境が害される型に整理され、事業主に措置義務があります(男女雇用機会均等法 第11条第1項)。妊娠、出産等に関する言動によるものは同法 第11条の3、育児休業や介護休業などの制度利用に関する言動によるものは育児介護休業法 第25条が、それぞれ措置義務を定めています。いずれも、相談を行ったことや相談への対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをすることは禁じられています。
個人情報を取り扱うときは、まず利用の目的をできる限り特定します(個人情報保護法 第17条第1項)。あらかじめ本人の同意を得ないで、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはなりません(同 第18条第1項)。取得したときは、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに本人に通知するか公表します(同 第21条第1項)。第三者への提供は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得るのが原則です(同 第27条第1項)。人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などは要配慮個人情報として、より慎重な扱いが求められます(同 第2条第3項)。
情報漏えいは、持ち出さない・見せない・つながない、が基本です。顧客リストや入館証を私物と一緒に持ち歩かない、公共の場で画面を開かない、私物の記録媒体を業務データにつながない。SNSは、社内だけのつもりの話でも公開の場に出た瞬間に取り返せません。上場会社等の業務等に関する重要事実を職務に関して知った会社関係者は、その重要事実が公表された後でなければ、その会社の株式などの売買をしてはなりません(金融商品取引法 第166条第1項)。他人の著作物は、公表された著作物を公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で引用する場合などを除いて無断では使えません(著作権法 第32条第1項)。著作権は原則として著作者の死後70年まで存続します(同 第51条第2項)。個別の判断に迷ったら、必ず社内の管理部門や専門家に相談してください。
個人情報を扱う前の確認手順 1. 何のために使うのかを言葉にして特定する 2. その目的を本人に通知したか公表しているか確かめる 3. 目的の範囲を超える使い方をしていないか点検する 4. 社外に渡すなら、あらかじめ本人の同意があるか確かめる 5. 病歴などの要配慮個人情報が混ざっていないか見る 6. 不要になったデータは決められた方法で確実に消す
| 種類 | 何をめぐる決まりか | 根拠 |
|---|---|---|
| パワーハラスメント | 優越的な関係を背景とした過度な言動 | 労働施策総合推進法 第30条の2 |
| セクシュアルハラスメント | 性的な言動による不利益と環境の悪化 | 男女雇用機会均等法 第11条 |
| 妊娠、出産等に関するハラスメント | 妊娠や出産に関する言動 | 男女雇用機会均等法 第11条の3 |
| 育児休業等に関するハラスメント | 育児や介護の制度利用に関する言動 | 育児介護休業法 第25条 |
- パワーハラスメントの3要素
- 優越的な関係を背景とした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、就業環境が害されること(労働施策総合推進法 第30条の2)。
- 6類型
- 厚生労働大臣の指針が示す代表的な型。身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害。
- 対価型と環境型
- 性的な言動への対応で労働条件上の不利益を受けるのが対価型、性的な言動で就業環境が害されるのが環境型(男女雇用機会均等法 第11条)。
- 要配慮個人情報
- 人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴など、特に配慮を要する記述等を含む個人情報(個人情報保護法 第2条第3項)。
- 重要事実
- 上場会社等の業務等に関する重要な事実。職務に関して知った会社関係者は公表前の売買を禁じられる(金融商品取引法 第166条)。
- 引用
- 公表された著作物を、公正な慣行に合致し目的上正当な範囲内で利用すること(著作権法 第32条第1項)。出所を示し、自分の記述を主にする。
例題 採用面接で受け取った応募書類を、本人に伝えていない新規事業の営業リストに使ってよいか。
使えない。採用のために取得した個人情報を、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うには、あらかじめ本人の同意が必要(個人情報保護法 第17条・第18条)。
例題 未公表の大型契約の話を社内で聞いた。相手方の上場企業の株を今買ってよいか。
職務に関して重要事実を知った会社関係者は、公表されるまでその会社の株式などを売買してはならない(金融商品取引法 第166条第1項)。家族名義や他人に伝えて買わせる行為も問題になる。必ず社内の管理部門に相談する。
例題 他社のウェブ記事を自社の提案資料にそのまま貼り付けてよいか。
引用として認められるには、公表された著作物であること、公正な慣行に合致すること、目的上正当な範囲内であることが必要(著作権法 第32条第1項)。出所を示し、自分の記述が主で引用が従になる形にする。丸ごとの転載は引用の範囲を超える。
出典:労働施策総合推進法 第30条の2、個人情報保護法 第17条、著作権法 第32条
冠婚葬祭と贈答
慶事の作法(水引・のし・表書き・招待状の返信)
結婚祝いを中心に、水引の選び方、のしの意味、表書きの書き方、祝儀袋の整え方、そして招待状の返信までを一続きで身につけます。
慶事で品物や現金を贈るときは、まず水引を選びます。何度あってもよいお祝いには、ほどいて何度も結び直せる蝶結び、別名を花結びといいます。結婚のように一度きりであってほしいことには、ほどけない結び切り、その一種のあわじ結びを使います。病気やけがからの回復を祝う快気祝いも繰り返さないほうがよいので結び切りが選ばれます。ここを取り違えると意味が反対になってしまうので、袋を買う前に用途を確かめてください。なお細かな作法には地域差があるので、迷ったら年長の方や販売店に聞くのが確実です。
のし、漢字では熨斗と書くものは、掛け紙や祝儀袋の右上に付いている細長い飾りです。もとは干したあわびを薄く伸ばしたもので、生ものを添えるという意味があります。ですから、魚や肉のように生ものそのものを贈るときには重ねて付けません。慶事の印なので弔事にも付けません。市販の袋や掛け紙にはあらかじめ印刷されていることが多いので、用途に合ったものを選べば自然と正しい形になります。
表書きは水引の上の中央に、贈る人の名前は水引の下の中央に、表書きより少し小さめに書きます。結婚祝いなら寿、御祝、御結婚御祝などが一般的で、4文字を避けて祝御結婚と書く形も広く使われます。連名は縦書きで右が上位になるため、地位や年齢の高い人から右へ順に並べます。人数が多いときは代表者名の左に外一同と書き、全員の名前は中包みや別紙に記します。筆記具は毛筆または筆ペンの濃い墨が基本です。
祝儀袋の中身と渡し方にも型があります。慶事はあらかじめ用意した気持ちを表すために新札をそろえ、中袋の表側に肖像が来て、その肖像が上になる向きに入れます。金額は中袋の表に漢数字で書き、住所と氏名を裏に書きます。持参するときは袱紗に包み、受付で袱紗から取り出して、相手に正面が向くようにして両手で渡します。慶事の袱紗は暖色系、弔事は寒色系、紫はどちらにも使えるとされています。
招待状の返信は、届いたらできるだけ早く出します。出席の場合は、御出席の御を二本線で消して出席を丸で囲み、使わない御欠席は文字ごと二本線で消します。御芳名は御芳までを消して名を残し、その下に自分の名前を書きます。御住所は御だけを消します。宛名の行や宛は二本線で消して様に直します。余白にお祝いの言葉と、出席できるうれしさを一言添えると印象がよくなります。
招待状の返信の書き方 1. 届いたらできるだけ早く投函する 2. 御出席の御を二本線で消し、出席を丸で囲む 3. 使わない御欠席は文字ごと二本線で消す 4. 御芳名は御芳までを消し、名を残して名前を書く 5. 宛名の行または宛を二本線で消して様と書く 6. 余白にお祝いの言葉を一言添える
| 場面 | 水引の結び方 | 理由 |
|---|---|---|
| 結婚祝い | 結び切り・あわじ結び | 一度きりであってほしいため |
| 出産祝い | 蝶結び | 何度あってもよろこばしいため |
| 入学祝い・就職祝い | 蝶結び | 繰り返しあってよいお祝いのため |
| 快気祝い | 結び切り | 繰り返さないほうがよいため |
| お中元・お歳暮 | 蝶結び | 毎年繰り返す季節のあいさつのため |
| 弔事 | 結び切り | 繰り返さないようにという意味のため |
- 水引
- 祝儀袋や掛け紙に掛ける紐。結び方によって意味が変わり、蝶結びと結び切りを使い分ける。
- 蝶結び
- 花結びとも呼ぶ、何度でも結び直せる結び方。出産祝いやお中元など繰り返しあってよいことに使う。
- 結び切り
- ほどけない結び方。結婚祝いや快気祝い、弔事など、繰り返さないほうがよいことに使う。あわじ結びもこの一種。
- のし
- 掛け紙の右上に付く細長い飾り。もとは干したあわびで、生ものを添える意味がある。生ものそのものや弔事には付けない。
- 表書き
- 水引の上に書く用途の言葉。結婚祝いなら寿、御祝、御結婚御祝など。名前は水引の下に少し小さめに書く。
- 袱紗
- 祝儀袋や不祝儀袋を包んで持参する布。慶事は暖色系、弔事は寒色系、紫はどちらにも使えるとされる。
例題 結婚祝いに蝶結びの祝儀袋を使ってよいか。
使わないのが一般的。蝶結びは何度でも結び直せるので、繰り返しあってよいことに用いる。結婚は一度きりを願うため、結び切りやあわじ結びを選ぶ。
例題 内祝いに生鮮の魚を贈るとき、掛け紙ののしはどうするか。
のしはもともと生ものを添える印なので、生ものそのものを贈るときには付けないのが一般的。水引だけの掛け紙を使う。
例題 招待状の返信で、御芳名はどこまで消すか。
御芳までを二本線で消し、名を残してその下に自分の名前を書く。御だけを消すと芳名という敬意の表現が残ってしまう。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです
弔事と季節の贈答(香典・服装・言葉づかい・お中元とお歳暮)
通夜と告別式での動き方、宗教によって変わる香典の表書き、避けたい言葉、そしてお中元とお歳暮の時期と表書きまでを整理します。
訃報を受けたら、日時・場所・喪主の名前・宗教の形式を確認します。通夜は夜に行う儀式、告別式は故人に別れを告げる儀式で、どちらか一方に参列することも多くあります。取り急ぎ通夜に駆けつける場合は、地味な色のスーツなど平服でも差し支えないとされ、告別式は喪服が基本と説明されるのが一般的です。装身具は控えめにし、光るものや華美なものは避けます。数珠は仏式の場で用いるもので、神式やキリスト教式では持ちません。会社や地域に決まった慣行がある場合は、そちらに合わせてください。
香典の表書きは宗教によって変わるので、必ず事前に確認します。仏式では御香典や御香料が広く使え、神式では御玉串料や御榊料、キリスト教式では御花料が用いられます。御霊前は仏式の通夜や葬儀で使われることが多い一方、浄土真宗では亡くなるとすぐに仏になるという教えから御仏前を用いると説明されます。宗派が分からないときは御香典のような無難な表書きにするか、先方や葬儀社に確かめるのが確実です。表書きは薄墨で書く習わしがあります。
不祝儀袋は結び切りの水引を使い、慶事の印であるのしは付けません。中に入れるお札は、慶事の新札とは反対に、不幸を予期して用意していたという印象を避けるため新札は使わず、新札しか手元にないときは一度折り目を付けて入れるという慣行があります。袱紗は寒色系を選びます。受付では袱紗から取り出し、お悔やみの言葉を述べてから、相手に正面が向くようにして両手で渡します。金額の目安や細かな作法は地域や間柄で変わるので、社内の慣例があれば確認してください。
言葉づかいでは、このたびはご愁傷さまでございます、心よりお悔やみ申し上げます、といった定型を使い、死因を尋ねたり長話をしたりしません。重ね重ね、たびたび、返す返す、ますますのような重ね言葉は不幸が繰り返すことを連想させるため、忌み言葉として避けます。ご冥福をお祈りします、供養、成仏といった言い方は仏教の言葉なので、神式やキリスト教式の場では使いません。参列できないときは弔電を、通夜または告別式に間に合うように、斎場宛・喪主宛で手配します。
お中元とお歳暮は、日ごろの感謝を伝える季節のあいさつであってお祝いではありません。水引は毎年繰り返すものなので蝶結びを用い、表書きは御中元、御歳暮とします。贈る時期には地域差があり、お中元はおおむね7月の初めから中ごろ、地域によっては8月の中ごろまで、お歳暮は12月の初めから20日ごろまでとされます。時期を過ぎたら表書きを変え、お中元は立秋までが暑中御見舞、立秋を過ぎると残暑御見舞、お歳暮は年が明けて松の内までが御年賀、その後は寒中御見舞とします。目上の方には暑中御伺、残暑御伺とすることもあります。お祝いではないので喪中の相手にも贈ってよいとされますが、紅白の水引は避け、無地の短冊などにするのが一般的です。
弔電を手配する手順 1. 通夜と告別式の日時と場所を確認する 2. どちらかに間に合う時刻を逆算して申し込む 3. 宛先は斎場、宛名は喪主のフルネームにする 4. 喪主が分からなければ、故人の名に ご遺族様 と添える 5. 文面から重ね言葉と宗教の合わない言葉を外す 6. 差出人に会社名・部署名・氏名を入れる
| 宗教・形式 | 広く使われる表書き | 気をつけること |
|---|---|---|
| 仏式 | 御香典・御香料 | 浄土真宗では御仏前を用いるとされる |
| 神式 | 御玉串料・御榊料 | 数珠は用いない |
| キリスト教式 | 御花料 | 冥福や供養などの仏教の言葉は使わない |
| 形式が分からない | 御香典 | 先方や葬儀社に確認するのが確実 |
- 通夜
- 葬儀の前に行う儀式。取り急ぎ駆けつけるという性格から、地味な色の平服でも差し支えないとされる。
- 御玉串料
- 神式の葬儀で用いられる表書き。御榊料も使われる。神式の場では数珠を用いない。
- 御花料
- キリスト教式の葬儀で用いられる表書き。冥福や供養といった仏教の言葉は使わない。
- 忌み言葉
- 重ね重ね、たびたび、返す返すなど、不幸が繰り返すことを連想させるため弔事で避ける言葉。
- 弔電
- 参列できないときに送るお悔やみの電報。通夜または告別式に間に合うよう、斎場宛・喪主宛で手配する。
- 寒中御見舞
- 松の内が過ぎてから贈るときの表書き。年が明けて松の内までは御年賀とする。
例題 神式の葬儀に参列する。香典の表書きは何にするか。
御玉串料や御榊料が広く使われる。数珠は仏式のものなので持参せず、ご冥福という言い方も仏教の言葉なので使わない。
例題 お中元の時期を過ぎてしまった。表書きはどうするか。
立秋までなら暑中御見舞、立秋を過ぎたら残暑御見舞とする。目上の方には暑中御伺、残暑御伺とすることもある。
例題 弔問の場で 重ね重ねお悔やみ申し上げます と言ってよいか。
重ね重ねは不幸が繰り返すことを連想させる重ね言葉なので避ける。心よりお悔やみ申し上げます、と言い換える。
※ 公的な定めはありません。広く通用しているビジネス慣行を整理したものです